買い物 その2
ワンピースを買いに行く前に昼食をとるため、モールの3階にあるフードコートに移動することにした。
浩ちゃんと佳那は歩きながら二人で仲良く話している。声で男バレしてしまうので、学校の外で極力しゃべらないことにしていることもあり、その後ろを黙って裕太はついていく。
前方の方に、バレー部の森田コーチの姿が見えた。隣りにいる女性と二人で買い物に来ているみたいだ。
浩ちゃんも気づいたみたいで、「あれ森田コーチじゃない?」と佳那に話している。裕太はコーチもプライベートはあるので、気づかないふりをして通り過ぎたかったが、佳那は止める間もなく「西野コーチ、こんにちは!」と旧姓で呼びながら森田コーチのもとへと走っていった。
「西野コーチじゃなかったですね、慣れてなくてすみません。」
「いいよ。私もまだ慣れてないから。」
裕太と浩ちゃんが追い付いたころには、森田コーチと佳那は楽しそうに談笑していた。
「有川さんと松下さんも一緒なのね。こんにちは。」
「コーチ、お休みのところすみません。」
プライベートの時間を邪魔したことに裕太は謝ったが森田コーチは気にする素振りも見せずに笑顔を見せている。隣りにいる女性が、「はるちゃんの教え子?」と聞いてきた。
「そう、白石高校のバレー部の1年生。」
コーチが裕太たちのことを連れの女性に紹介した。
「松下さんがこの前話していた、入学式からスカート履いてきている子だよ。」
コーチが隣の女性に話しているのが聞こえた。
「そうなんだ、私は2年生になるまで恥ずかしくてスカート履けなかったけど、最近の子は進んでるね。」
「ひょっとして、OBですか?」
裕太は思わず聞いてしまった。
「そういえば自己紹介まだだったね、森田蒼で10年ぐらい前の卒業生です。嫁がお世話になっています。」
森田コーチの女友達と思っていた女性は、最近結婚した相手だと知って裕太たち3人は驚いた。
改めて森田コーチの結婚相手をみてみるが、黒のカットソーに白のプリーツスカートと、シンプルだけどかわいらしい姿をしている。
「旦那さん、って言っていいかわからないけど、コーチと結婚されている方、可愛いですね。」
佳那が褒めると、コーチは少し照れている表情になった。
「高校卒業しても、ずっと女の子ままだったんですか?」
浩ちゃんも興味津々と言った表情で質問した。
「大学までは女の子だったけど、今は半々ぐらいかな。休みの日と在宅ワークの日だけ女の子楽しんでる。」
コーチのご主人は明るい笑顔で質問に答えてくれた。
「ほら、コーチのデートの邪魔しちゃ悪いから、そろそろ行こうよ。」
裕太の提案に、佳那が「お腹もすいたしね。」と同意してくれて、コーチに挨拶して、再びフードコートへ向け歩き始めた。
フードコートは1時を過ぎていても混雑していた。その中から、空いている席を探して座り、裕太はうどん、浩ちゃんはハンバーガ、佳那は牛丼と三者三様の昼ご飯を食べ始めることにした。
「ポテトLサイズにしてきたから、みんなで食べよう。」
浩ちゃんはポテトをテーブルの真ん中に置いた。こんな気遣いが自然とできる浩ちゃんを同学年ながら尊敬してしまう。
「コーチの旦那さん、可愛かったね。」
佳那が遠慮なしにポテトに手を伸ばしながら、先ほどのコーチの結婚相手について話し始めた。
「ホント、可愛かったね。言われなけば、男性って気づかなかったし。ハクジョ男子と結婚っていいな。」
浩ちゃんは自分みたいなスカートを履いている男子でも恋愛対象と知って、裕太は少し胸が躍った。
「浩は、彼氏がハクジョ男子でもいいの?裕ちゃんの前で言うのもなんだけど、私はちょっと無理かな?友達ならいいけど、彼氏ってなるとイケメンの方がいいかな。」
佳那は申し訳なさそうに言いながら、牛丼を口に運んでいる。裕太もそれが普通の女子の考えだと思うので、さほどショックはない。
「別にハクジョ男子と付き合いたいってわけじゃないよ。もちろん芸能人みたいなイケメンと付き合えるならそれが良いけど、現実の男子ってゴリラみたいでしょ。ゴリラと付き合うぐらいなら、まだハクジョ男子の方がマシなだけよ。」
浩ちゃんは反論しながら、その顔は真っ赤になっていった。裕太もハクジョ男子でいた方が、他の男子よりも浩ちゃんの好みに合っていることを知り、胸の鼓動が速くなってきた。
「そんなわけで、裕ちゃんはゴリラにならないでね。」
「うん、わかった。」
午後からワンピースを買うために訪れたお店は、いわゆる「姫系」のファッションブランドだった。
「これ、試着してみて。」
そう言って浩ちゃんかはピンクのかわいいワンピースを、裕太に渡した。
「これ着るの?はずかしいよ。」
「さっき、ゴリラにはならないって約束したでしょ。このワンピースが似合うようになってね。」
そう言いながら、浩ちゃんは試着室へと裕太の背中を押し始めた。裕太は嫌がりつつも、浩ちゃんとのやり取りが嬉しかった。
コーチの旦那さんが言っていた、「女の子を楽しむ」とはこんなことかなと思いつつ、試着室の中でワンピースに着替えることした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます