買い物

「明日、買い物行かない?」

 土曜日の部活が終わって片付けをしているとき、裕太に浩ちゃんが話しかけてきた。

「買い物って、何を?」

「裕ちゃんの服に決まってるでしょ。どうせ、春に私が渡した服以外持っていないんでしょ。」

「まあ、そうだけど、着る機会ないんじゃない?」

 土曜日も部活だと私服を着る機会は日曜日だけだが、平日の疲れをいやしたり、日曜日は学校の勉強したりで、一日中家にいることが多く、部屋着として着ているスエットで一日を過ごすことも多い。

「それじゃ駄目よ。女の子は作られるんだから、日曜日も気を抜かない!」

 日曜日の過ごし方を浩ちゃんに伝えると、怒られてしまった。

「それに、急に遊びに行くってなったとき困るでしょ。そんなわけで、明日10時に迎えに行くから、一緒に買い物行くよ。」

 裕太の反論を許す間もなく、買い物に行くことが決定してしまった。


 日曜日朝ごはんを済ませると、裕太は部屋着から買い物に行くための服に着替え始めた。たしかに夏物の服は少ない。薄手の茶色のカットソーと黒のスカートが一着ずつあるだけだ。選ぶ余地もなくそれに着替えることにした。

 約束通り10時に迎えに来た浩ちゃんと、入学前にも行ったショッピングモールへ向かった。

 モールに着くと佳那が待っており、裕太たちの姿を見つけると手を振ってくれた。買い物に佳那も一緒に来ることは聞いていない。

「ごめん、言うの忘れてた。昨日裕ちゃんと買い物に行くって佳那に話したら、一緒にきたいって言うから、いいよって言っちゃった。ダメだった?」

「ダメじゃないけど。」

 来てしまっているのに「ダメだ。」とは言いづらい。浩ちゃんも佳那も二人ともパンツスタイルで、スカート履いているのは男子の自分であるだけと思うと、気後れしたしまう。


 モールの2階にある若者向けのプチプラのお店に入り、早速裕太の服選びが始まった。最初に「どんな感じがいい?」と聞かれたけど、女子のファッションのことはよく分からないと伝えると、浩ちゃんと佳那は二人で服選びを始めてしまった。

「このスカート、可愛い。」

「こっちのワンピースもいいかも。」

 裕太の意見を聞くこともなく、二人で盛り上がっている。

「できたら、もう少し地味な感じがいいけど。」

「裕ちゃんは黙ってて!最高にかわいいの選んであげるから、待ってて。」

 裕太の抗議もむなしく、二人のテンションは上がっていった。


 二人の服選びを後ろで眺めながら待つこと30分ちょっと、ようやく気に入ったものが見つかったみたいで、スカートを2着渡され試着室に行くように言われた。

 どちらもミニスカートで、試着するにも抵抗があり渋っている様子を見かねた佳那が声をかけてきた。

「せっかく選んだだから、着てみてよ。」

 佳那は裕太の背中を押して、試着室へと向かわせた。裕太もしたなく試着するために、試着室へと入ることにした。


 試着室で改めて渡されスカートをみてみる。一つは黒のミニスカートでリボンがついている。もう一つは茶色のミニスカートで裾のところにレースがついている。

 迷った末に、茶色の方を選んで試着してみる。初めてミニスカートを履いてみたが、やっぱり恥ずかしい。

 足の太さも気になるし、下着が見えないか心配になってしまう。

「そろそろ着替え終わった?」

 ずっと躊躇してなかなか試着室から出てこない裕太に、しびれを切らした浩ちゃんの声が外から聞こえてきた。あまり待たせるのもよくないと思い、意を決して裕太は試着室のカーテンを開けた。


 二人の視線が裕太のミニスカートに向く。あまりみられるとより恥ずかしさがわいてくる。

「かわいい。やっぱりミニして正解だね。」

「もう一つの方も着てみてよ。」

 恥ずかしがっている裕太を面白がっている感じもするが、絶望的に似合っていないわけではなさそうで一安心した。

 試着室のカーテンを閉め、もう一つのスカートを試着してみる。着てみるとこちらの方が少し丈が長いみたいだ。

 共布のリボンベルトを結び始めるが、きれいに結べず苦戦してしまう。

「裕ちゃん、まだ?」

「リボンが上手く結べなくて。」

「いいから、一度開けてみて。」

 リボンを適当に結んだ後、試着室のカーテンを開けた。


「女の子なんだから、リボンぐらい結べるようにならないとね。」

 浩ちゃんはそう言いながら、裕太のリボンを結んでくれた。自然と二人の距離が縮まり、鼓動が速くなる。下半身も興奮しそうになってしまうが、この状態で興奮すると嫌われるのは確定なので焦ってしまう。

 別のことを考えて気をそらそうと、古文で習った「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、」と平家物語の冒頭部分を暗唱して興奮を抑えた。

「はい、できたよ。」

「ありがとう。」

 リボンを結び終えた浩ちゃんが、佳那のところへと戻っていく。下半身の興奮がバレなかったことに、ほっと胸をなでおろした。

「こっちの方がいいね。」

「女の子は、リボンだよね。」

 二人からの評判も上々だ。裕太も先ほどのよりはこちらの方がいいと思っていたので、ちょうどよかった。


 会計をすませたところで、気づけば1時近くになっていた。

「お腹すいたね。お昼食べに行く?」

 裕太が浩ちゃんにきいた。

「そうだね、次の買い物の前にお昼食べようか?」

「まだ買い物するの?スカート買ったよね。」

 裕太は先ほど買ったスカートが入っている袋を浩ちゃんに見せた。

「まだスカートだけでしょ。ワンピースも必要だから、午後からはワンピースをみにいくよ。」

 裕太の買い物は、まだ続くみたいだ。


 

 



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