ニキビ

 中間テストも終わり授業でテストの結果が返ってきたが、赤点をとることなく終えたことに裕太はほっと一安心していた。

 朝の洗顔の後、鏡を見るとあごのところにニキビができていた。潰すと痕がのこるので、潰さないように髭を剃った。中学の頃は、ニキビができてもあまり気にすることはなかったが、高校生になってからは気になってしまう。


「裕ちゃん、おはよ。ニキビできたの?」

 朝会ってすぐに、浩ちゃんにニキビのことを指摘された。やはり女の子のチェックは厳しい。

「うん。朝起きたらできてた。甘いもの控えてたのに、ちょっとショック。」

「ニキビ、最近いい薬もあるから皮膚科行ってみたら?明日、部活午後からだし、午前中に行ってきたら?」

「そうだけど、でも・・・」

 裕太は今の女の子の格好で、保険証で男とわかってしまう病院に行くのに抵抗があった。

「保健室で病院紹介してもらったら?多分、大丈夫なところ知ってると思うよ。」

 裕太の心配事を見透かしたように、浩ちゃんがアドバイスをくれた。


 土曜日の午前中部活前に、保健室で紹介された学校近くの皮膚科に寄ることにした。保健室の先生から、白石高校の卒業生がやっている病院なので配慮してくれると聞いていた。

 聞いた通りスカートの制服を着ているのに、受付で保険証をみせても特に反応なく事務的に処理してくれた。当たり前のことが嬉しく感じる。

「34番の松下さん、診察室に入ってください。」

 フルネームで呼ばれることもなく、白石高校の卒業生らしい配慮が行き届いていることに安心して診察室へ向かった。


 診察室には、20代とおもわれる女性の先生が座っていた。

「こんにちは、今日はどうしたの?」

「ニキビを診てもらいたくて。」

 そのあと先生はニキビを診てくれた。

「塗り薬出しておくから、それを塗ってね。」

「ありがとうございます。」

「あと、診察と関係ないけど、その制服ってことはハクジョ男子?私も同じ、ハクジョ男子だったよ。最初恥ずかしかったけど、慣れてくると女子高生として生活するのって楽しいよ。」

 同じハクジョ男子?目の前にいるのが、男性と思えず驚いてしまった。

「先生は、卒業後もずっとそのままなんですか?」

 ニキビの診察とは関係ないが、つい興味本位で質問してしまった。

「そうだよ。好きだった女の子にハクジョ男子のままでいてって言われて、そのままずっと女の子の格好してる。あっごめん、ハクジョ男子見ると嬉しくなってつい余計なことまで言っちゃった。第二と第四の土曜日、ここにお手伝いに来てるから、良かったらまた来てね。」

 そう言われて、裕太は診察室を後にした。自分と同じように、好きな女の子のためにハクジョ男子になった先生がすごく親しみを覚えた。


 部活が終わり、ネットを片付けている裕太に佳那が声をかけてきた。

「裕ちゃん、この後予定ある?この後シェイク半額だから、みんなで行くことになってるけど裕ちゃんも一緒にどう?」

「行きたい。誘ってくれてありがとう。」

 唯一の男子部員の裕太に対して、分け隔てなく接してくれることが素直に嬉しい。


 バレー部の1年生8人で駅前にあるファーストフード店に入った。部活でお腹がすいているのか、みんなシェイクと一緒にポテトなども注文している。

 注文した品を受け取り、4人ずつに分かれて席に座った。裕太のテーブルには、浩ちゃんと佳那と広瀬さんが座っている。

「裕ちゃん、そういえば皮膚科どうだった?」

「薬もらったよ。それで、そこの先生うちの学校の卒業生で、ハクジョ男子だった。」

 皮膚科の先生について話すと、みんな興味深そうに聞いてくれた。

「そのニキビの場所って、『思われニキビ』だよね。」

「えっ、『思われニキビ』って何?佳那。」

「ニキビができた場所で恋愛占いがあるの知らないの?上下左右の順番で『思い』『思われ』『振り』『振られ』だよ。」

 佳那は自分の顔を指差しながら教えてくれた。

「だから、裕ちゃんの場合は、誰か裕ちゃんの事好きな人がいるってことだよ。」

 ニキビ占いは迷信だとしても、ひょっとして「浩ちゃんが私の事を」と期待してしまう。

「ちがうよ。男の場合は逆になるから、それは『思いニキビ』だよ。裕ちゃん、誰か好きな人いる?」

 浩ちゃんに「好きな人いる?」って言われても困る。何も言えず、黙っていることにした。

「あ~、恥ずかしがってる。これはいるね。誰?」

 広瀬さんが食い下がってきた。ますます赤くなってきた裕太をさらにひやかしてきた。でも、不思議と悪い気はしない。女子の輪に入れてもらえるのが楽しい。

 皮膚科の先生が言っていた「女子高生の楽しさ」を裕太は満喫していた。




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