中間テスト
5月下旬になり気温も上がってきたし、髪も伸びてきたので、裕太は髪の毛を後ろでゴムで束ねることにした。昨日、駅ビルの100円ショップでみつけたヘアゴムで、小さなリボンがついているのがかわいくて買ってしまった。
面談で先生から、「好きなものを恥ずかしがる必要はない」と言われ、素直に従うようになって気が楽になった。
最初は恥ずかしかったスカートも慣れてきて、慣れてくれば女の子の生活も楽しくなってきた。憧れの浩ちゃんとは姉と妹のような関係が続いている。そんな関係も慣れれば楽しい。
「おはよ。髪結ぶようにしたんだね。そのゴムかわいいね。」
「ありがとう。暑いから結ぶようにしたんだ。」
すぐに浩ちゃんが気づいてくれた。自分が気に入ったものを褒めてもらえると嬉しい。
「最初はスカート履いただけで恥ずかしがっていたのに、いまでは自分でリボン買うなんて、裕ちゃんも変わったね。」
以前ならこんな風に言われると恥ずかしく思っていたが、変わった自分の方を浩ちゃんが褒めてくれるので、好きな人の好みに合わせられたことでむしろ嬉しい。
電車に乗ると鞄から英単語帳を取り出した。浩ちゃんは公民の教科書を読んでいる。来週に迫った中間テストのため、寸暇を惜しんで勉強をしている。
「そういえば、裕ちゃんは勉強グループ決まった?」
「決めたという感じではないけど、いつもお昼ごはん食べている3人でやると思う。」
白石高校ではテスト前に数名で勉強グループを作って、お互いに教えあう習慣がある。友達同士で気軽に質問できることできることもあるが、教える方も勉強になるということで、大手進学塾がない地方のハンデを克服するために生まれた習慣のようで、代々その伝統は受け継がれている。
お昼休み、篠ちゃんと橋本さんの3人でいつものようにお弁当を食べていると、テスト勉強の話になった。
「部活、今日から休みだね。放課後、さっそく勉強する?」
篠ちゃんが、タコさんウインナーを食べながら聞いてきた。
「家帰っても自分で勉強しないと思うから、みんなと一緒にやりたいな。裕ちゃんもそれでいい?」
「私も普段部活を言い訳に勉強してなかったけど、部活が休みになっても勉強しないと思うから、みんなと一緒の方がいいかな。」
浩ちゃんと一緒の学校に行きたい一心で、中学時代かなり頑張って勉強して合格した高校なので、その分授業のレベルが高く正直ついていけていない部分もある。裕太としてはみんなで勉強したほうが、教えてもらえるので助かる部分が多い。
「最初何からやる?私、英語がいいな。」
「私も苦手な英語から始めたい。」
「二人とも、英語苦手なの?私も苦手。」
他の教科も得意とは言えないが、英語はとくに苦手だ。このまま英語が苦手な3人で勉強でしていくのも不安だ。
「誰か英語が得意な子を誘おう。」
お弁当を食べ終わってから、クラスで英語が得意な子を誘ってはみたものの、すでに他の勉強グループに入っていると言われてしまった。
放課後になりクラスのみんなは、数名の勉強グループに分かれて勉強を始めている。このまま英語が苦手な3人で頑張るしかないと諦めた時、吉川さんが一人で帰ろうとしているのが見えた。
「吉川さん、一緒に勉強しない?」
裕太は思い切って声をかけてみた。英語の授業で吉川さんは綺麗な発音で英文を読んでいたので、英語は得意なはずだ。吉川さんが自分のことを嫌っているのはわかっているが、背に腹は代えられない。
即答で断られると思ったが、吉川さんは少し困った表情になり無言のまま考え始めた。
「別にいいけど。」
そっけない感じであるがOKの返事がもらえた。
吉川さんと一緒に、篠ちゃんたちのもとにもどると、篠ちゃんは意外そうな表情、橋本さんは怪訝な表情をしていた。
「なんでよりによって、吉川さん誘うのよ。」
橋本さんが非難めいた口調で抗議してきた。
「赤点で補習と追試で部活出られなくなるよりいいでしょ。」
赤点をとると放課後に行われる補習と追試を受けなくてはならなくなり、1週間部活ができなくなる。そのことを思い出したのか、橋本さんも渋々吉川さんの参加を認めた。
「吉川さんもよくOKしてくれたね?男子のスカート着用認めることにしたの?」
篠ちゃんが裕太も思っていた疑問を聞いてくれた。
「別に認めたわけじゃないけど、知らないまま嫌うのはフェアじゃないから、篠原さんと松下さんのこと、もう少しよく知ろうと思っただけよ。」
理由はともあれ参加してくれてよかった。裕太は、いつも一人でいる吉川さんのことが気になっていた。
お昼ご飯も一人で食べているし、休み時間も本を読みながら一人で過ごしている。一人でいるのが好きなのかもしれないが、せっかく一緒のクラスになったのだから、これを機会に仲良くなりたい。
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