面談 その2 ~本田圭佑~

 順調に面談もすすみ3日目となった。みんな順調そうに見えて、勉強についていけない、友達ができないなどいろいろ悩みを抱えている。

 教師歴も6年目、だいたいどの悩みも一度は聞いたことがある悩みだが、本人たちにとっては一大事ということは肝に銘じて対応している。


 面談4日目となる今日も順調に進んでおり、次は最後の男子生徒、松下裕太の順番となる。入学初日からスカートを履いてきたが、入試の時の調査書ではとくに性の悩みについては言及されていなかったので、その理由は不明だ。

 今後のことも考えると、今日の面談でその理由を聞いておいた方がよさそうだと思ったところで、部活中ということもあり、ジャージ姿の松下さんが教室に入ってきた。


 いつも通り学校生活のことを聞いて、場を和ませた後核心に迫ることにした。

「松下さん、初日からスカート履いてきてるけど、女の子になりたかったの?それとも私みたいに男と自覚したうえで、かわいくなりたいだけなの?」

「どちらかと言えば、先生みたいな方だと思います。」

 はっきりしない言い方になにか理由がありそうと感じた。


「松下さんの方から、質問や相談ある?」

「いまだにスカート履いているのが恥ずかしく感じる時があります。先生みたいになりたいと思っているけど、なれるか不安です。」

 理由はわからないが、スカートを履いて恥ずかしく感じるところを見ると、篠原さんみたいに自分の意志でスカートを履いているわけではなさそうだと悟る。

「慣れの問題もあるけど、別に悪いことしているわけではないし、好きでスカート履いているから恥ずかしがることはないと思うよ。松下さんは、初日からスカート履いてきているぐらいだから、好きで履いてるじゃないの?」

「実は、中学時代から好きな子がいて、その子に勧められてスカート履いてるんです。」


 ようやく心を開いてくれたみたいだ。

「そうなんだ。でも、きっかけが何であれ、森下さんはスカート嫌いなの?」

「それが思ったよりも嫌じゃなくなってきて、下着も女性ものの方がかわいくて好きになってきたし、文具もかわいいのが欲しくなってきました。でも、男なのにそれでいいのかなと思ってしまう時があります。」

 この相談も以前受けたことがある。自分自身の潜在的な意識に初めて気づき、戸惑いが生じるのは仕方ない。

「素直に自分が好きなものを好きでいいんじゃないの?女子と思われるのが嫌なの?深く考えずに、自分が好きなものを褒めてくれたら喜べばいいと思うよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 松下さんは安心したような笑顔を見せた。完全に割り切れるようになるまでには時間がかかるだろうだが、不安を少しは取り除けたみたいだ。こんなとき、教師として喜びを感じる。


 翌日の面談最終日この日は、初日から私に突っかかってきた吉川日奈が予定されており、面談の最後にして最大の山場を迎えることになる。

 時間がかかることは予想されたので、この日の最後に面談をいれている。入学初日に、あんなことをいうぐらいだから、何かしらの事情を抱えていそうだ。それを上手く聞き出したい。


「ありがとうございました。」

 面談を終えた生徒が一礼をして、教室からでていく。次はいよいよ吉川さんの順番となる。姿勢を正し、気合いをいれる。

「失礼します。」

 吉川さんが教室に入ってきた。長髪の髪を後ろで一つに結び、少したれ目がちな目元はかわいらしくもあり、すっと通った鼻筋に心の強さも感じる。

「吉川さん、最後になってごめんね。」

 着席を促すと、スカートがしわにならないようにお尻に手を当てて椅子に座った。その仕草に洗練された美しさを感じる。

「吉川さん、初日にあんなことあったけど、今はどう?」

 あえてアイスブレイクはせずに、すぐに核心の話題にうつった。

「先生に注意されたので口は慎んでいますが、内心では男でスカート履いている人は嫌いなままです。」

「好き、嫌いは仕方ないけど、そんなに嫌う理由はあるの?」

「家庭の事情で言いたくはないですけど、篠原さんみたいに心が女性な人がスカート履くのは仕方ないと思えますが、先生や松下さんみたいに男と自覚したうえで、スカート履いている男の人は認めたくないです。」

 なにやら深そうな事情がありそうだが一気に攻めるのは逆効果、この面談ではここまでにしておこう。

「吉川さんの家族の事情はわからないけど、吉川さんの家族と、私や松下さんたちみんなを一緒にして嫌うのも良くないと思うよ。最初から嫌いと思わずに、心開いたほうが吉川さんのためにもなると思うよ。嫌いなものに囲まれて生活するよりは、好きなものに囲まれた方がいいでしょ。」

「そうですね。ちょっと考えてみます。」

 吉川さんの心が少し開けたような気がした。


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