面談~本田圭佑~
本田圭佑は朝起きて服を選ぶとき、今日から二者面談が始まることを思い出た。今手に持っているニットより、きっちり目の方がいいと思いなおしシルケット加工のカットソーにジャケットに合わせることにした。
これから1週間かけて、数名ずつクラスの生徒と1対1で面談をする。一人当たり5分前後の短い面談だが、1対1でないと話せない悩みや相談を聞き出すことができ、躓きやすい入学初期の生徒のサポートにつながる重要な行事である。
放課後の時間を利用して教室で面談を行い、出席番号順に生徒が交代で教室に入ってくる。
「失礼します。」
斎藤卓也が礼儀正しくお辞儀をして、教室に入ってきた。緊張しているのか、表情も引き締まっている。
「斎藤さん、入学して1か月ぐらい経つけど高校生活はどう?」
話の切り出しは全員同じだ。
「先生はみんな丁寧にわかりやすく教えてくれるし、演習問題のプリントも質が高く充実して満足しています。」
斎藤さんは準備していたかのようにスラスラと答えた。だいたい多くの生徒は、質問されると数秒間考える時間がある。何か隠していると教師の直感が告げていた。
「そう、この学校に満足してくれて先生も嬉しいです。ところで、男子生徒は2年生から制服がスカートになるけど、その準備はしてる?」
「一年間の我慢なので、どうにかなると思います。」
「我慢して過ごしてもいいけど、せっかくだったら楽しんだ方がいいと思うよ。そのためには、いろいろ準備が必要になるから、相談したいことがあればいつでも言ってね。」
そこまで言ったとき、斎藤さんは今までの引き締まった表情からゆるんだ表情になった。
「先生、実は家族にも言い出しにくくて、何を準備したらいいのかわからなくて悩んでいました。」
ようやく心の本音に触れることができ、一安心した。
「そうね、まずは髪と肌の手入れから始めようか。リンスとトリートメント使ってる?」
斎藤さんに一通りの髪の毛と肌の手入れの仕方を教えたあと、彼は満足そうな表情で教室から出て行った。
次に教室に来たのは、篠原亮太だった。彼、いや彼女は、本人は自分のことをトランスジェンダーと思っており、すでにスカートで通学している。
「篠原さん、学校生活はどう?」
「はい、とっても楽しいです。授業もわかりやすいし、クラスや部活の人たちもみんな優しいです。中学と違って、スカート履いても誰もバカにしないので、学校に来るのが楽しいです。」
入試の時の調査書には、クラスでいじめられたことが原因で不登校気味とあって心配していたが、この学校では問題なさそうだ。
「そう、良かったね。何か、相談や質問ある?」
「先生は、女性になりたいと思ったことありますか?」
「スカートを堂々と履けるって意味では女の子になりたかったけど、よく考えたらかわいい服着て、かわいくなりたいだけだから、別に性転換しなくてもいいかなって高校生の時気づいた。」
「私もそうなのかもしれません。」
「まあ、3年間あるからゆっくり考えてね。そのうえで、専門的な治療を受けたければ病院も紹介できるから。」
少し悩んだ表情で篠原さんは教室から出て行った。男性が好きだから、スカートが好きだから、トランスジェンダーは単純な話ではない。
続いて面談二日目となり、この日は橋本佳那から面談がスタートした。昨日と同様に、アイスブレイクのために勉強や部活など学校生活の話題を振って、相談しやすい雰囲気を作る。
「学校生活は順調そうに見えるけど、何か話したいことある?」
「学校とは関係ない相談でもいいですか?」
橋本さんはそう前置きしたうえで話し始めた。
「私、男の人を好きになれないんです。クラスのみんなが好きな男性アイドルグループも好きになれないし、どちらかと言えば女子の方が好きです。」
「話してくれて、ありがとう。」
この学校にいると同じような相談を毎年受ける。思春期特有の百合願望と言ってしまえばそれまでだが、本人とっては深刻な悩みだ。
「先生は、恋愛対象は男性ですか、女性ですか?」
「今付き合っている人は男性だけど、女性とも付き合ったことあるよ。」
「それって、バイセクシャルってことですか?」
「そういう言い方もあるけど、好きな人がたまたま男だったり、女性だったりしている感じかな。」
「そんな見方もあるんですね。」
橋本さんは感心したようにつぶやいた。
「橋本さんもこれから多くの人と出会うから、その人が男性か女性かはわからないけど、そのうち好きな人とも出会えるよ。」
そうやって励ますと、橋本さんはホッとしたような表情となった。
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