理想の彼氏づくり~有川浩子~

 有川浩子は年齢を重ねるにつれ、同学年の男子が嫌いになっていった。男子はいつも大きな声でゲームや漫画の話で盛り上がって、乱暴で粗雑で嫌いだった。

 中学生になると男子たちは性的な感情をもって女子の体を見るようになり、さらに嫌悪感が増していった。

 何人かに告白されたりラブレターをもらったりしたが、もちろん断った。もはや同級生の男子は、ゴリラにしか見えない。


 そんな中でも同じマンションに住んでいる幼馴染の松下裕太のことは、不思議と嫌いにならずにいた。

 子供のころは一緒に遊んでいたが、小学校の学年が上がるにつれ向こうが遠慮してきたのか、あまり遊ばなくなってきた。

 中学校に入ったあとは、普段男子とはあまり話さない浩子が松下君に話しかけると、周囲から冷やかされるのが嫌で、素っ気ない態度をとることにしていた。


 そんな松下君もそのうち他の男子と同じように、ゴリラになってしまうのか、そしてそんなゴリラになった松下君を、自分は嫌いにならずにいられるのか、ずっと気がかりだった。


 中学3年になり高校の志望校を決めるため、いろんな高校のパンフレットを見ていく中で、白石高校に興味を持ち始めた。

 県内有数の進学校ということもあり進学実績がすごいのはもちろんのことだが、男子の制服がスカートであることに驚いた。

 女子がスラックスとスカート両方選べるのは、LBGTQに配慮した今の時代当たり前になっている。男子も制度上スカート選択は可能だが、男子がスカートを選択するにはハードルが高い。

 そこで男子の制服をスカート指定にすることで、言い出せなかった潜在的なトランスジェンダーの生徒にも配慮できるし、男子がスカートを履くことでジェンダーについて学ぶ良い機会になるとパンフレットには書いてあった。


 それを読んで浩子にはある考えが浮かんできた。松下君と一緒に白石高校にいけば、松下君もスカートを履くようになって、女の子らしくなればゴリラにはならなくて済む。

 男子が苦手な浩子にとっては、女装した松下君の方がゴリラよりも数千倍ましだ。松下君は女装が似合いそうな顔立ちをしているし、女の子になった松下君と百合的な展開になることを想像すると興奮してくる。


 あとはどうやって松下君に白石高校を志望してもらうかだ。松下君が私に惚れていることは気づいている。お昼ご飯食べる時にさりげなく松下君の席の近くで、志望校の話をすれば、私と同じ高校を志望してくれるはず。

 そんな目論見はあっさり成功して、松下君も白石高校を志望していることを担任の先生から聞いた。もし成功していなければ、面識のある松下君の母親を通じて白石高校を受験するように働きかけるつもりだったが、その必要はなかったみたいだ。


 二人とも無事に合格した後、松下君と体型が近い友達に頼んで着ていない服を譲り受け、いよいよ松下君の改造計画がスタートすることにした。

 突然の訪問に驚き何か別のことを期待していた松下君に、半ば無理やりスカートを履かせてみた。惚れているものの弱みで、反論らしい反論もせずに松下君はスカートに着替えてきた。スカートの位置が違ったのはご愛敬として、正しい位置にすれば思った通り似合っていた。


 入学式の日の朝、初めてのスカートでの外出に緊張している姿はかわいく、外に出た後私にすがりながら歩いている松下君の表情は、今思い出してもゾクゾクしてくる。

 クラス割は、8クラスもあるので当然と言えば当然だが、同じクラスにはならなかった。

 そこで、もっと一緒にいる時間を増やすためにバレー部に誘うことにした。男子のマネージャーが受け入れられるか心配だったがあっさり認められ、柔軟体操している私の横で、先輩マネージャーと一緒に部活の道具を出している。

 新しく入った1年生含めて30人弱のバレー部で唯一の男子部員ということもあり、はやくもみんなのマスコットキャラ的存在になっている。


「ごめん、待たせちゃった。」

 部活が終わった後、申し訳なさそうに裕ちゃんが校門前にやってきた。

「私も今来たところだから。さあ、帰ろう。」

「うん。」

 甘えた笑顔で答える裕ちゃんをみると、裕ちゃんを白石高校に入れて良かったと思う。ゴリラになることなく、子猫のようになってくれた。

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