第43話

「ありがとう。二人の気持ちはよくわかったよ。でも、ごめんなさい。今は誰とも付き合いたいとは思わないんだ」


 智樹は頭を下げて謝った。正直言って、姉以外の誰かと付き合うという考えは今の彼にはなかった。


 もちろん、姉と結婚することができない以上、いつか姉以外に好きな子ができたら付き合うこともあるかもしれないが、そんなことは今は考えたくない。


「そっか……うん、わかった。でも、これからも友達として仲良くしてくれるかな?」


 智樹の言葉を聞いて、ポニーテールの子が寂しげに言う。


「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」


 智樹が笑顔でそう返すと、彼女もホッとした様子を見せた。


 その後、二人は教室から出て行った。


(さっきの子たち、俺のどこを見て好きになったんだろうか?)


 智樹は不思議だった。別に顔立ちやスタイルが良いわけでもない。

それでも、自分に好意を抱いてくれたことは素直に嬉しかった。


 家に帰ったが、学校での出来事を引きずるように興奮状態だった。

両親が帰宅するまでにまだ時間があった。


 智樹は姉の部屋のドアをノックする。


「姉tちゃん、入ってもいい?」


「いいわよ」


 返事を聞いた後、智樹は部屋に入った。


「どうしたの? わたしに相談事かしら?」


 ベッドの上で横になりながら本を読んでいた優奈が体を起こす。


「いや、そういうわけじゃないけど……」


「座りなさい」


 智樹がベッドの縁に座ると、彼女は微笑んで言った。


「何かあったみたいね。お姉ちゃんにはわかるわ」


「……」


「今日、告白されたでしょう?」


「なんで知ってるんだよ!?」


「そりゃあ、弟がどれだけモテているかチェックしておかないとね。ちなみに、わたしのクラスの男子にもあなたのことを知っている子はいるから」


 今日学校であった出来事を説明する手間が省けた。


「そうなのか……それで姉ちゃんの感想を聞きたいんだけど、俺はどうすればよかったと思う?」


 我ながら変な質問だ。 自分は姉のことが好きで、つい先日告白をしたばっかりで、性欲の処理までしてもらっている身で。


「ふーむ、難しいところだけど、まず結論を言うと、断る以外の選択肢はなかったわね」


 優奈は即答した。


「やっぱり、そうなのか」


 予想通りの答えだったのでショックは少なかった。


「ええ、理由は色々あるけれど、一番大きいのはあなたに他に好きな人がいるってことね」


 智樹だってそんなことはわかっていた。だが、改めて言われると胸の奥が痛くなるような気がする。


 彼は黙り込んだ。すると、優奈が話を続ける。その声音はとても優しくて穏やかだった。


 まるで母親が子どもを諭すように。あるいは姉が弟に言い聞かせるように。智樹にとってこの上なく心地の良い響きだった。


 そして、彼女の言葉は彼の心に深く染み渡っていく。


 それは麻薬のように彼の思考力を奪っていく。


 もしかしたら、実の姉に恋慕の情を向ける弟を持て余して、 タイミングよく現れたクラスの女子に押し付けることができるチャンスだったのだ。


「交際を申し込まれたのならつきあったらいいじゃない」と言われる可能性だってあった。


 彼女は弟のことをよく理解していた。


 だから、彼が今何を望んでいるのか手に取るようにわかった。


「また、処理して欲しくなったんでしょ?」

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