第42話
これもまた、思い出せなかった。
智樹の頭の中には、クラスメイトの名前はほとんど入っていない。授業で必要なことを覚えるだけで精一杯だった。
だが、それは仕方がないことだ。智樹はまだ高校生になったばかりだし、人間関係を築く余裕がなかった。
だから、クラスメイトのことを覚えていなくても、智樹は悪くないはずだ。
悪いのは、名前を知らないのに話しかけてきたり、馴れ馴れしく接してくる人間の方だ。
そんなことを考えているうちに、智樹は二人に囲まれていた。
最初に手を握ってきたのはポニーテールの子。彼女は嬉しそうに微笑んでいる。
もう一方の少女は俯いていた。よく見ると耳まで真っ赤になっている。
智樹は困ってしまった。二人は何を考えているのだろうか? そもそも、何のためにここへ来たのだろう?
「えっと……何か用?」
智樹が訊ねると、ポニーテールの方が口を開く。
「私たち、前からあなたのことが気になっていました」
ストレートな告白。智樹はさらに困惑してしまう。いったいどういう意味なのか?
「あ、あの……好きです! 付き合ってください!」
顔を赤くしながら少女は言った。
智樹は呆然としてしまった。まさか、自分に好意を寄せてくれる女の子がいるなんて思ってもいなかったのだ。
(どうしよう?)
生まれて初めての経験に戸惑う智樹。
その時、ふとある考えが浮かんだ。
(そうだ。こういう時は相手の気持ちを知るために質問をしてみよう)
智樹は思い切って訊ねることにした。
「ねえ、なんで俺なんかのことを好きになるんだ?」
「だってカッコいいもん。それに優しそうだし……」
智樹の問いに、ポニーテールの子は照れたように答える。
(カッコいいって……俺ってそんな風に見えてるんだ)
今まであまり意識したことなかったけど、他の人から見れば、俺はそういうふうに見えるのか――
智樹は自分の容姿を客観的に見ることはあまりなかったので、少しだけ新鮮な気分になった。
とはいえ、今はそれどころではない。智樹は首を振った。
「じゃあさ、君は俺のどこが好きなんだ?」
続けて問いかける。
すると、今度はショートカットの子が答えた。
「私はあなたの声が好きです。優しい声です。聞いていると安心します」
智樹は驚いた。自分のことを好きだと言ってくれる人が他にもいたとは思わなかったのだ。しかも、それが同じクラスの子だとは。
智樹は、この二人がどんな性格をしているのか全く知らない。ただ、自分と同じクラスで、なおかつ席が近いというだけの認識しかなかった。
それなのに、いきなり告白されて智樹は戸惑ってしまう。
だけど、同時に嬉しいとも感じていた。
こんなにも自分を想ってくれる人がいたということに対して、感動すら覚えていた。
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