第41話
「今日は昨日より暑くなりそうだな……」
起き上がると、制服に着替えた。
朝食を食べていると姉が起きてきた。
「おはよう」
「ああ、おはよ」
「昨日のデートはどうだった?」
いつもより帰りが遅くなりそうなので、クラスメイトと繁華街に出かけたことは親に伝えた。
「どうって……別にデートじゃない。クラスメイトに声をかけられて一緒に遊んだだけさ」
智樹はトーストにバターを塗りながら答えた。
「うまくいきそう?」
弟の姉への恋心を知っている優奈。それでいて一昨日の夜には、弟の性欲の処理をしてくれた。
この矛盾した行動は、智樹にとっては不可解であり、不安でもあった。
弟がきちんとした恋人を作ればきっと姉離れできるだろうとの考えなのはわかる。
でも、今は姉の優しさを受け入れるしかないのだ。智樹は諦めにも似た感情を抱いていた。
(俺がもう少し大人になればわかるようになるのかな?)
今の智樹には、姉の心に渦巻く複雑な想いの正体を知ることはできなかった。
放課後、智樹は図書室にいた。
本を借りに来たわけではなく、勉強するためである。夏休み中に実施される実力テストに備えて、今のうちから少しでも点数を上げておきたかった。
智樹は机に向かって問題集を開いた。数学の問題を解く。わからないところは教科書を見て確認する。
静かな空間の中でカリカリとシャーペンの音だけが響く。
しばらくして顔を上げると、向かい側に誰かがいることに気づいた。
(ん? 誰だろう)
その少女は智樹の方に体を向けて椅子に座っていた。見覚えのある顔だ。確か同じクラスの子だと思う。名前は――思い出せない。
ショートカットの髪が似合う可愛らしい少女だ。彼女はジッと智樹の顔を見つめていた。
その視線に気づいて智樹も彼女の方を見た。すると、相手は恥ずかしそうに目を逸らす。智樹は不思議に思いながらも、再び自分の作業に戻った。
しばらく経って、智樹は再び顔を上げた。やはり目の前に人影がある。
今度は先ほどの少女ではなかった。別の女子生徒が座っていた。
彼女は智樹の手元にあるノートを覗き込んでいる。
そのことに気づかず、智樹が問題を解き続けていると、突然、その手が掴まれた。驚いて振り返ると、そこにはもう一人の女子生徒がいた。
セミロングの髪を後ろで束ねた活発そうな子だった。その子は、智樹の手を掴んだまま離さない。そして、ニッコリと笑った。
智樹は混乱した。どうして自分が手を握られているのか理解できなかったからだ。
しかし、すぐに理由がわかった。
この子も同じクラスなのだ。名前は――
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