第36話
「わたしたちは離れて暮らしている間に普通の姉弟とは違ってしまったのね。だからって、姉弟であることを否定する関係になってしまっていいのかしら? わたしたちの関係はそんなに簡単に壊せるものではないはずよ」
智樹は姉の言葉を正しいと思った。自分たちの関係はもっと複雑なものであるはずだ。
「姉さん、嫌じゃないのか? 弟に他の男からと同じように見られて、同じ家の中で暮らしていて」
「確かに普通ではないかもしれないけれど、姉弟ですもの。それに……」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は急に顔を赤らめた。
「あなたがわたしの体に触れたいのだって、母親にとって赤ちゃんがおっぱいを吸いたがるようなものでしょう」
(いや、それは違うんじゃ無いかな)
智樹は思ったが、口に出さなかった。
「たとえ、あなたがわたしと無理矢理にセックスしたとしても、あなたを憎んだりはしないと思うわ」
「うっ、姉ちゃん」
智樹の頬を涙が伝わった。声も上ずる。
「うぐっつ、姉ちゃん、抱きしめてもいい?」
姉は無言で腕を開いて弟を迎え入れた。
そして、その頭を優しく撫ぜた。
それから、二人はしばらく無言のまま抱き合っていた。
やがて、智樹の方からそっと体を離すと、自分の気持ちを確かめるようにゆっくりと語り始めた。
姉はその言葉を聞きながら、弟の背中をポンポンと軽く叩いていた。
やがて、智樹は決心を固めた顔を上げた。
「俺さあ、もう我慢できないんだよな。こんなふうに姉ちゃんと一緒にいると、頭の中がおかしくなりそうなんだ」
「ええ、知ってるわ」
姉は微笑みを浮かべていた。
「あの、早速で悪いんだけど」
弟はおずおずと顔を赤らめながら言った。
「今も、その欲求が爆発しそうなんだ」
「そう」
姉はちょっと考えるような表情を見せた。自分で言ったこととはいえ、勇気のいることだった。
「 わかってると思うけど、わたし、そういう経験全くないんだからね」
「あったら、おれの気が狂うよ」
姉に性的な事ではないと言う事は疑っていなかった。
「だからいきなりセックスまでするのは勘弁してね」
「わ、わかった」
こうして抱き合っていることは姉にとってはむしろ、健全な姉弟のスキンシップだった。弟の温もりも抱きしめられる腕の力強さも心地よかった。しかし、この先となると話は別だ。
「じゃあ、ベッドへ行こうか」
智樹は緊張しながら、姉の肩を抱いて寝床へと導いて行った。
「ほ、本当にセックスはしないからね」
「わかってる」
念押しする姉に対して、弟は力強く答えた。
ベッドに並んで腰掛けた。
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