第34話
「二人のわたし?」
優奈は首を傾げた。
「姉としての姉さんと、そのなんて言うか、年上の魅力的な女性としての姉ちゃんがおれの中では同時に存在してるんだ」
説明が難しいが、これで通じるだろうか。
「あなたの中で、姉のわたしが 消えちゃったわけじゃないのね」
「もちろん」
優奈は少しほっとしたようだった。
「でもその一方でわたしのことを一人の女性として見ていると。それも恋愛対象として」
智佐の顔に朱がさした。
(そんなこと言われたら誰でも照れるよな。おれだってかなり恥ずかしい)
「そうなんだ。だから……」
言葉に詰まる。
「だから?」
優奈が先を促す。
「えーと、つまり、その……」
「うん」
「嫌だろ、姉さん、実の弟から恋愛の対象として見られるなんて」
眉間に指を当てる優奈。
「嫌と言うより、困るというか……、それって、わたしが悪いのかな」
自分を責め始めた。
「そんなこと、姉ちゃんは何も悪くないよ」
「美しすぎるわたしの罪ね」
ガクッと智樹の緊張が緩んだ。
(意外とタフだな、この人)
そしてまた沈黙が訪れた。今度は智樹の方から口を開いた。
優奈をじっと見つめる。吸い込まれそうな黒い瞳。智樹はその目に見入っている自分に気づき、慌てて目を逸らす。
そして言った。意を決したように。それは、
「だから、おれは家を出ようかなと考えていたんだ」
「は!? だめよ、そんなの」
姉の目尻がきっと釣り上がり、鋭い声が返ってきた
「でも」
「でも、じゃないわ! なんでそうなるの!?」
納得する気配はまるでない。
「そうしないと、姉さんを傷つけてしまいそうなんだ」
「傷つけるって何よ? あながわたしに何をするってわけ」
智樹は大事なことを言わなければならないのに、とても姉の顔を見ながら言葉にできることではなかった。
「そ、それは」
「それは?」
智樹は顔を伏せて言った。
「いつか、姉さんを襲ってしまいそうだから」
「おそう?」
オウム返しにする優奈の声も心なしか震えているようだ。
「ああ」
「わたしを? あなたが?」
「そう」
「いつ?」
「わからないけど」
「……」
「……」
「わたし、お姉ちゃんだよ?」
「お姉ちゃんでもさ」
物心ついた時から姉を生物学的な異性とは認識していた。 別れて暮らすようになってから1人の女性として意識する気持ちがどんどん強くなっていった。離れて暮らせばこそのことだろうか。
「比重はどうなってるの?」
「比重?」
「お姉ちゃんと1人の女の子の割合よ。あなたのわたしに対する認識の」
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