第29話

 一方その頃、智樹は自分の部屋にいた。ベッドの上で仰向けになって天井を見つめながら考え事をしていた。


(俺は……)


 先ほどまで一緒に居た姉について考えていた。


 彼女は昔から自分に優しかった。その優しさは今でも変わっていないように思える。だが同時に違和感を覚えてもいた。何かが違うのだ。その理由が分からない。


 ただ漠然とした不安のようなものを感じる。


 その時――。


 部屋の扉をノックする音が聞こえた。そして返事を待たずに開いた。入って来たのは姉の優奈だった。


「ごはんできたよ」


「ああ……」


 彼は体を起こすと部屋を出て階段を降りた。1階のリビングに入ると、既に食事が用意されており、父と母が席に着いていた。彼らは降りてきた息子を見て口々に声をかけた。


「おう、智樹。こっちに来て座れよ」


 父の言葉に従って、智樹は父の隣の椅子を引いた。


「いただきます!」


 4人の声が重なった。まず最初に父が食べ始めた。それに続いて母と優奈が食事を摂り始める。智樹はその様子を眺めながら、箸を手に取った。


 そして、まず味噌汁を一口飲んだ。続けて生姜焼きを口に運ぶ。


 いつもと変わらない味だった。特に変わったところはない。普段通りの家庭の味がするだけだ。しかし、何故か無性に懐かしい気分になった。

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