第28話

 しかし―――。


(ごめん……)


 心の中だけで謝った。


「それに、わたしたちは姉弟なんだから遠慮する必要なんて無いんだよ」


「そうだな……ありがとう姉ちゃん」


 智樹は微笑みを浮かべた。すると、彼女もつられて笑った。そして、その笑顔を見た時、胸の奥が疼いたような気がした。だがそれは、決して不快な感覚ではなかった。


「どうする? このあとはゲームでもする?」


 彼女はそう訊いてきた。


「うん……」


 少し考えてから智樹は答えた。


「入学に備えて予習をするよ」


「じゃあ、お茶とお菓子を用意しておくね」


「ありがとう……」


「いいよ。気にしないで」


 優奈は「それじゃあ」と言って部屋を出た。そして階段を下りて行った。1階へ降りるとリビングのドアを開けた。そこにはソファに座る父と母の姿があった。


「奈々ちゃんとあいかわらず仲がいいわね」


 母が言った。


「今日は智樹が連れてきたのよ」


「そういえば智樹とも昔は仲が良かったものね」


「そうだったっけ?」


 優奈の記憶と印象が異なる。自分の記憶の中では、あくまで奈々は自分と遊びに来たときに、二言三言弟とも言葉を交わす程度の仲だったように思う。もちろん、自室で姉と友人の2人がテレビゲームに興じるのに、智樹も招いて一緒に遊んだ事は何度もある。しかし、小学校の中学年ともなれば、姉の友人と混じって遊ぶのは気恥ずかしいものだったと思う。だから自然と智樹は誘いを辞退していたはずだ。少なくとも優奈の記憶ではそういう事になっている。


 それがいつの間にか、両親からは奈々は姉の友達としてではなく、弟の友だちとしても認識されていたようだ。


 あるいは単に自分が忘れているだけかもしれないが……。


「まぁ、いいけどね……」


 母は苦笑いしながら呟くと立ち上がった。


「お母さんは夕飯の準備を始めるわね」


「私も手伝うよ」


 優奈も立ち上がるとキッチンへと向かった。2人は夕食を作る前に冷蔵庫の中を確認した。今日のメニューを考えるためだ。すると冷蔵庫の中には豚ロース肉が入っていた。


「ねえ、これ使ってもいいかな?」


「いいんじゃなぃ? お父さんには内緒にしておけば」


 優奈の母・美鈴は悪戯っぽく笑って言った。


「分かった。秘密にする」


 2人で協力して調理を開始した。


  調理開始から30分後。


 テーブルの上には4人分の料理が置かれていた。豚肉を使った生姜焼き定食である。優奈は盛り付けた皿を両手に持つと、それをダイニングテーブルへと運んだ。続いて味噌汁の入った鍋を持ってくると、ガスコンロの上に置いた。それから炊飯器の蓋を開けると、しゃもじを使って茶碗にご飯を盛りつけた。最後に箸や取り皿などの食器類を揃えると、それらを食卓の中央に並べた。そして準備を終えると、今度は母の手伝いに向かった。

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