両親の再婚で数年ぶりに同居することになった実の姉と弟

第27話

「小学生の時はたしかに可愛がってくれたけど」

　奈々は一人っ子だった。 だから自分のことをどのように思ってくれているのかと智樹は思っていた。

「でも、良かったじゃない。美人の先輩からチヤホヤされて」

　うれしくないわけでは無いものの、姉にも伝えることができないトラウマがあった。

「それは……まあ」

「正直なのは良いことだと思うよ」

「うるさいな」

「ふふっ、照れてる智樹って可愛い」

　完全に子ども扱いである。

「姉ちゃんまでそういうことを言うのか」

「事実なんだから仕方がないじゃん」

「可愛くなんかねえよ」

「そうかな？ わたしはあなたが可愛くて仕方ないけど」

　それは、あくまでも、家族として弟に対する姉の愛情であろう。

「はいはい。ありがとうございます」

　智樹は何度聞いたかもわからない礼を言う。

「もう、せっかく人が褒めてるのに、どうしてそんな言い方しかできないの？」

「生憎、女みたいな喋り方は苦手でね」

　本心とは真逆だった。

「悪かったですね」

「お姉ちゃんは悲しいです」

「何だよそれ」

「だってさー、普通こういう時って、もっと喜んでくれるもんなんじゃないの？」

「そりゃあ、嬉しいことは嬉しいですよ」

「じゃあ、もう少し喜びなさいよね」

「はいはい、わかりましたよ」

　面倒くさいなと思いつつも、智樹も満更ではなかった。

「あのさ……」

「ん？どうしたの？」

　彼女は小首を傾げる。

　その仕草はとても愛らしくて、こんな人と将来も一緒に居られたら幸せだろうと思った。

「俺と一緒にいて、面倒くさくなったりしないか？」

　智樹にとって一番怖いことだった。

「急にどうしたの？」

「いや、ちょっと気になって……」

「なるわけないでしょ。何を言ってるのよ」

　即答だった。しかし、それでも不安だった。

「でも、俺は男だし、離れて暮らした時間が長いからいくらおとうとと言っても一緒にいて気を使うだろうし……」

「また、何か悩んでいるみたいだけど、そんなことで嫌いになるほどわたしは器の小さな人間じゃないわよ」

「姉ちゃん……」

　智樹には優奈の言葉がとても嬉しかった。それと同時に申し訳なく思った。いつか自分は姉に対して良からぬことをしてしまうのではないかと……。

　だが、それでも彼女のことが好きな気持ちを抑えることはできなかった。

　今の関係を壊したくないと思う。

　この関係のままでいいと思っていた。でも、そのために自分を律する強い心が必要だ。