第25話
「そこでたまたま会って」
「覚えてたのねって、奈々には話してたからね。智樹が帰ってくるって」
「そう。すごく嬉しそうに話してくれた」
奈々に言われて優奈は顔が赤くなった。
「もう、それはいいから上がりなよ」
姉に促されて友人は靴を脱いだ。
「じゃあ、おれはこれで」
買ってきた袋を姉に渡すと、智樹はリビングに姿を消そうとした。
「智樹くんも一緒に話そうよー。せっかく再会したんだから」
奈々が呼び止める。
「いや……でも」
「ほらほら遠慮しないで」
奈々に押し切られるように、智樹は姉の友人とともに階段を登った。
「帰ってきて自分の部屋は整理できたの?」
奈々は家の間取りも知っていた。当然、彼の部屋があると思う。彼女は興味津々という感じだった。
「後で遊びに行っていい?」
優奈に聞こえないよう、ボソりとささやいた。
「いや、それは」
ちょっとまずい事情があった。 それは奈々も承知のはずのなのだが。
テーブルを挟んで3人は向かい合った。奈々と優奈が対面に、姉の隣に足を組んで智樹が座った。
「さっきも言ったけど、お久しぶりです」
智樹は軽く頭を下げた。
「大きくなったねえ。見違えちゃうわ」
「ええ、まあ」
姉の友達は彼を見て目を細めた。
「ほんとうに大きくなって……」
しみじみと言う彼女に智樹は少し居心地の悪さを感じた。その視線は懐かしさだけでなく、どこか別の感情が含まれているような気がしたからだ。
「どうぞ」
姉がお茶を持ってきてテーブルに置いた。
「ありがとう、優奈」
奈々が礼を言うと、姉は微笑んで返した。
「それで」
彼女は仕切り直して話し始めた。
「何年ぶりかしら? 5年くらいかな?」
「はい。小学4年の時に転校してからなのでそれぐらいですね」
まるで奈々がこの家の住人で智樹が客人のようだ。
「畏まらないでよ、あなたの家なんだから」
自分の家はそうだが姉の部屋ということでも智樹は畏まっていた。自分が別居中、頻繁に家に出入りしていたのだろうから奈々のほうがこの部屋ではくつろげて当然だ。
「わたしと優奈は、高校も一緒だからいつでも会えるけど、智樹くんが引っ越しちゃったのはわたしもショックだったわ」
智樹の言葉に姉はうんうんと相槌を打った。
「でもまたこうして会えたわけだし、智樹くんが帰ってきてくれて嬉しい」
彼女の言葉を聞いて、優奈は照れ臭そうに笑っていた。
「本当に良かったね、優奈」
「うん。お父さんもお母さんも喜んでる」
「お二人が再婚したことを感謝しなくちゃね」
優奈は小さく首を縦に振った。
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