第24話

 それでも懐かしさを覚えるのは、彼らとの思い出が色鮮やかだからであろう。


「……ん?」


 家を出て3分経過した。路地の曲がり角に人影がある。


 誰かと思って近づくと、それは知っている顔だった。


 短い髪の少女――肩につかない長さでえり足やサイドにラインがある、またはラインを感じさせるヘアスタイル。髪型が記憶と違うが姉の友人だ。


 智樹は彼女の姿を認めると目を丸くして、すぐに気まずそうに視線を逸らす。


 しかし、彼女はパッと目を見開いて楽しそうに彼の方へ近づいてくる。


 智樹もどう反応していいのか分からず、とりあえず挨拶をする。


 少女の名前は七瀬奈々といった。


「おはよう」


「あ……お、おはようございます」


 智樹からすると彼女は年上の女性である。敬語を使ってしまうのは仕方がない。


「久しぶりね」


「お久しぶりです」


「ご両親が再婚なさったんですってね、優奈から聞いたわ。おめでとう」


「ありがとうございます」


「それで帰って来れたのね」


「ええ、まあ。こんなところで会うなんて奇遇ですね。お散歩ですか?」


 智樹の問いに答えた時、彼女は笑顔だった。その表情には曇りがなく、屈託のない笑みを浮かべている。


 彼と目が合うとニコッと微笑む。


(うっ……)


彼は思わず顔を赤くした。その仕草が可愛らしくて胸が高鳴る。こんな美しい年上の女性だが、智樹はこの少女、姉の友人が苦手だった。


「私? ちょっと用事があって出てきたところよ」


「そうなんですか……」


「あら? どうかした?」


「いえ、何でもないです」


「そう?」


 不思議そうに見つめてくる彼女に対して、智樹は何でもないフリをした。


「ねえ、この後暇かしら?」


「はい!?」


 突然の提案に驚く彼を見てクスッと笑う。


「あなたに会うの久しぶりだからお話ししたいわ、ダメ?」


「いや……あの……」


 智樹は返答に困ってしまった。


「コンビニに行くと言って家を出てきたので」


「じゃあ、これからあなたの家に行きましょう」


 奈々は歩き出す。


「えっと……はい」


 断れずについていくしかなかった。


 その前にコンビニエンスストアに向かう。ショッピングバッグを持参していたところに、ペットボトルの飲料とアイス、それからポテトチップスなどのお菓子を買い込んだ。


「ふう……」


 2人は玄関前に立った。智樹は緊張している。鍵はかけずに出てきた。父もいたから。2人は玄関前に立った。智樹は緊張している。鍵はかけずに出てきた。父もいたから。彼はドアノブに手をかけて回す。ガチャリという音とともに扉が開かれた。


 靴を脱いで上がるとともに家の奥にいるであろう姉を呼んだ。


「姉ちゃん、ねえチャーーん」


「おかえりって、奈々じゃない。どうしたの二人で」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る