第23話
「どうしたんだよ? 元気ないけど?」
(あんたのせいでしょ!)
「えっ……そんなことないよー! 大丈夫!」
「ほんとかぁ~?」
弟の心配そうな眼差しが痛い。優奈は平静を装いながらも心の中で自問する。
(この子は……智樹はどこまで気づいているんだろう?)
自身の心境の変化を弟に勘付かれないように細心の注意を払ってきたつもりだ。しかし、姉の自分よりも他人の気持ちに敏感なところがある弟には何かを感じ取られていたかもしれない。
優奈はそのことを危惧していたのだ。
「ほんとよ! 全然普通だから安心しなさい」
努めて明るく振る舞う姉を見て、智樹もそれ以上追及しなかった。ただ一言だけこう告げた。
「無理すんなよ……」
やはり、弟は自分の昨夜の過剰なスキンシップが姉を不安にさせている自覚があるのだ。だから、部屋の前まで来て「ごめん」と言い残したのだ。その言葉を聞いて、優奈は思わず泣きそうになった。だが、それをぐっとこらえて笑みを浮かべると、弟を抱き寄せて頭を撫でながら言う。
「ありがとうね……」
これは両親のいない時間であったらかなり危険なアプローチだったかもしれない。それでも優奈は弟の温もりを感じることで安らぎを得ることができたのであった。
その後、二人はいつも通り他愛もない話をしながら過ごした。卒業した中学校であったことや友達との部活動のことなどを楽しそうに話す弟の姿を見ているだけで優奈の心は満たされていく。
それは何物にも代え難い幸せな時間だった。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去るものだ。もうすぐ昼時になろうとしていた。そろそろ昼ごはんの準備をしなくてはならない。
「さあ、ご飯作るわよ。手伝ってくれる?」
「うん!」
こうして優奈は日常へと戻っていく。だが、彼女が本当の意味で平穏を取り戻すにはもう少し時間がかかりそうだ。
「コンビニ行ってくるよ」
昼食後に智樹は外出した。勝手知ったるご近所だが、数年ぶりなので街並みの変化を確認しておきたかった。
後一週間で高校の入学式だ。両親の離婚が無ければ姉と同じ高校を受験はしなかった。心から望んでいたが、遠方に母を置いて自分だけが上京するわけにはいかなかった。
高校生活に慣れるのは早いだろうが、新しい人間関係を構築するのは難しい。特に中学時代の友人と再会すれば尚更だ。
「……あいつら、どうしてるかねえ」
小学生時代からの知り合いである三人の顔を思い浮かべる。
両親の離婚で引っ越してから彼らと疎遠になっている。
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