第22話
優奈はひとり苦笑する。自分はいつまで経っても成長できないのか? それでは駄目だ。もっとしっかりしなければ。彼女は心の中でつぶやきながら服を身につけ始めた。
「そうだよ! こんなことで悩んでいる場合じゃないんだよ!」
そう自分を叱咤するように言ってみた。だがその一方で、
「だけど、こんなふうになるなんて」
戸惑いもあった。
「こんな気持ちは初めてだよ。なんだろうこれ?」
優奈は首を傾げる。
「やっぱり変なのかな?」
自問自答を繰り返す。
「うーん……わかんないよぉ」
彼女の声は少し震えていた。
自覚的に恋をしたことが無い優奈だった。特別気になる男子もいなかったはずだ。
「まさか、弟のことでこんな気持ちになるなんて」
弟が可愛くて仕方がないのは本当である。それが恋愛感情かどうかまではわからないが、客観的に見れば少なくとも家族愛を逸脱していることは確かだった。
「私もブラコンなのかなぁ……」
本人はまだ自覚が薄かった。
優奈は溜息をつくとベッドに腰掛けて、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
「でもしょうがないよね。あの子可愛いんだもん。それに優しいしね」
その言葉には嘘はない。ただ、それは親バカならぬ姉バカというものだった。
「でもどうしようかなあ」
天井を見つめながら考える。
「この気持ちを素直に伝えたらいいのかしら?」
そうすれば弟との関係は今よりずっと良くなるかもしれない。
「でもそんなことしたら、智樹は暴走するかもしれないし……」
そこで優奈の言葉は止まった。
「そんなことになったら、姉失格だわ」
どんなに弟が自分に強い思慕の上を向けようとも、それを抑えるのが姉の役目。
「でもこのままじゃいられないよね」
優奈は自分に言い聞かせるように言う。
「しっかりしなさい、わたし!」
勢いよく起き上がると、右手で拳を作った。
「毅然としたお姉ちゃんになるわよ!」
時計は23時を回っていた。
「明日から頑張ろうっと」
優奈は小さくガッツポーズをする。
「おやすみ、わたし」
そうつぶやくと、優奈は部屋の明かりを消して眠りについたのだった。健全な精神を持つ姉だった。
翌日から彼女はいつものように振舞うことにした。弟の前では常に笑顔を絶やさないように努めている。だが、それでも時折見せる寂しげな表情に弟は不安を募らせる。
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