第21話

 弟に欲情されることに対する恐怖なのか? それとも、自分の中に眠っているかもしれない未知の感情への恐れなのか? 答えは出てこなかった。


 優奈は服を着直した。そのままベッドに入り寝ようとしたが、なかなか眠れない。弟とのやりとりを何度も思い返した。


「なんでこんなにドキドキするんだろう?」


 自分の鼓動を感じる。胸の奥が熱い。


「弟なのに……おかしいよ」


 弟が姉の体に性的思慕を抱いているかもしれないことへの疑問と、そんな弟と同様に彼を異性として意識した自分への違和感。どちらもだった。


「あたしって……もしかして変なの?」


 そうつぶやいた時、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。それは弟の部屋から出発して、優奈の部屋の前を通る時に音は止まった。


(気づかれた?)


 焦った。慌てて露わになっている胸を両手で隠した。さっきの今でこんなあられなの無い姿を見られたら、押し倒されるかもしれない。明らかに部屋でくつろいでいる表情ではないことも自覚していた。


 優奈は耳を澄ます。すると再び


「姉ちゃん……」

 

 という小さな声がした。


「なあに?」


 思わず返事をした。顔が引き攣る。声が上擦ってないかと心配した。


「ごめんね……」


(何が?)


 それだけ言うとまた足音は遠ざかっていった。


「何を謝っているの?」


 優奈にはわからなかった。ただ胸騒ぎだけはしていた。彼は無遠慮に姉の部屋に立ち入ることはせず、部屋に戻っていった。


 ほっとした。深くため息を吐く。


「よかった」


 だがその安堵感の裏にあるものが何かわからない。それが怖いのだ。


「ああもう!」


 優奈は自分の頭を掻きむしる。髪は乱れた。


「どうしようもないじゃない」この感情の正体を知りたいと思った。知れば楽になれるような気がした。でも知ることが恐かった。


 弟だって先ほどのスキンシップに性的な意味があることを自覚しているから、 それは姉が知っていることをわかっているから、謝ってきたのだ。


 優奈の頭の中に様々な想いが交錯する。


「わたしは……どうしたいの?」


 彼女は独り言のようにつぶやく。


「このままじゃいけないよね」


自分に言い聞かせるように言った。


 鏡の中に裸身の自分がいる。


 弟がドアの前にいる時は、 とっさに胸元を隠すので、精一杯だったが 早く服を着直さなければ。


「どうしてこうなったんだろう?」


 優奈は不思議に思う。


「なんとかしないとね」


 いつまでも子どものままではいられない。だからといって大人になることが正しいことなのか?


「正しいとか正しくないとかの問題じゃないんだよ」

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