第20話

 智樹の部屋を出て、優奈は自室に戻った。そして先ほどのことをもう一度考えてみた。


「頭を整理しよう」


 ベッドに腰掛けた。体のあちこちに弟の体温が残っているように思えた。体温はすぐに外気で冷めてしまうはずだ。ぬくもりと思っているものも、彼の肉体との接触の感触だ。手だけでなく、頬や全身が接していた。


「姉の体に触ってみたところで、他人の女の子を触るような楽しさは無いはず」


 姉はこの時点で考え違いをåしていた。


 そう思ったものの、何かしら気分が違うことにも気づいた。


「いや……」


「それは違う」


「他人ではないから?」


「姉弟だから?」


 その感覚はどこか違う気がした。


(では何だろう?)


  姉と弟であることとは関係がない。それは確かなことだ。だが同時に、姉弟であるということには意味がある。意味はあるのだが……。


 考えながら、優奈は自分のパジャマを脱いだ。ブラジャーも外す


「わたしが男だったとして触れてみたいと思ったものは……」


 優奈はショーツ一枚になった自分の体を眺めた。


「やっぱり……胸かなあ」


 弟に触れられた場所を思い出した。手ではなく顔を埋めていたが、やはり一番大きな面積を占めていたのは乳房だった。次に背中。下半身に手が来たことはあっただろうか?


「うーん……」


 思い出せない。記憶に無いということは、触れられたことが無いということだ。


「なんであんなに触ったんだろう?」


 智佐は再び考えた。やけに長時間抱きしめられていたと思う。嫌悪感は無かったが、よく考えたら指先が胸に触れていた瞬間もあったと思う。


「そうだよね……」


「でも、あの時は不思議じゃなかったなぁ」


 優奈は全裸になって鏡の前に立った。自分の裸身を眺める。特に意識して体つきを気にしたことは無いし、モデル体型だとかボンキュッボーンだとかいう形容とも無縁だと思う。ただ


「この体は……やっぱり女なんだね」


 改めてそう思った。そして弟のことを考えた。


「なんでわたしなんかに触れたいんだろう?」


 優奈はしばらく鏡の中の自分を見つめた。


「本当は彼女の一人もほしいお年頃のはず、私でもその代わりにぐらいなるのかしら」


 しかしすぐに首を振った。


「代わりなんてイヤよ!」


 自分で口に出した言葉を否定した。


「そんなのおかしいじゃない! だって弟だよ!?」


 優奈は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


「変だよ! 絶対にヘン!!」


 弟が自分の体を求めてきたことに動揺している自分がいることに気づいた。それが怖かった。


「怖い……どうして?」

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