第18話
『もう離して』
言いかけて飲み込んだ。弟の積極的な反応を望んだのは自分なのだ。自分が感じているぐらい姉弟生活再開の喜びを弟にも見せてほしかった。その反応が自分の想像と違ったから、過剰だからと言って今更止めてというのも冷たいのではないか。
「智樹、今何を考えているの?」
「……」
無言だった。ただ、深く息を吸う音が一呼吸聞こえた。優奈の体を弄る手が止まった。
優奈は智樹の頭を一度撫でて、体を起こそうとした。弟の手が姉の体を支えてくれた。
「姉ちゃん、体細いな」
「うん? まあ太っている方ではないと思うけど」
(何? 今の質問)
この数年、弟とは何度も会っていたがプールや運動施設に一緒に行くことはなかったから姉の正確な体型を知らなかったのだろう。
(水着姿でも見せてあげればよかったかしら。でも夏のブラウスは薄着だからわからなかったかしら)
ミニスカートを履く習慣はなかったし、ショートパンツで外で面会することもない。
「どうしたの?」
智樹が黙ったままだ。何か気に障ることでもあったのか。
「ごめんなさい、私何か変なこと言ったかな?」
「いや、そうじゃないよ」
智樹は苦笑しているようだ。
「姉ちゃん、やっぱり綺麗になったね」
優奈は自分の耳を疑った。お世辞を言うような子ではなかったはずだ。だが、今のは確かに褒め言葉だった。しかも、かなり好意的な意味で。
「ありがとう……」
礼を言いながら優奈は弟の顔を見つめた。照れくさそうな
「ねえ、智樹、ひょっとしてあなた……」
「うん、あのさ」
智樹の声には
「……え?」
「姉ちゃんのことがずっと気になってて」
「えーと、それってつまりどういうことなのかしら?」
混乱気味に尋ねるしかなかった。
「…………」
「そういう意味だよ」
優奈は何も言わなかった。いや、何も言えなかった。
「そろそろ部屋に戻るわ」
グラスを手に持って立ち上がった。
今はまだ踏み入ってはならない。姉はそう思った。
「うん……またね」
弟の部屋のドアを閉める時、その顔が一瞬だけ見えた。寂しそうな表情だった。優奈は部屋に戻り、ベッドに倒れ込むようにして横になった。そして、今日あったことを思い出していた。
弟は部屋に残された。
出て行った姉のことを考えた。
(姉ちゃん、驚かせちゃったかな……)
そう思うと罪悪感に駆られる。
「はっきりと言ったわけではないし」
ギリギリのところで本音を隠した。隠したつもりではいた。隠せていたかはわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます