第17話

「それが賢明かと」


 高校進学と共に親しい友人とも別々の学校へ進学することになった。でもそれは仕方ない。彼にとっての進学先とは姉の通う高校以外に無いのだから。


「やっぱり嬉しかったわ。元の家庭に収まるのは。なによりもお父さんとお母さんが再婚して1番嬉しかったのはあなたとまた一緒に暮らせることよ。何より智樹が帰ってきてくれたことが」


 照れくさい言葉だが、純粋な家族愛だからこそ、抵抗なく言葉が出てくるのだろう。


「おれも、姉ちゃんとまた 一緒に暮らせてうれしいよ」


 彼は姉のグラスをとって、自分の口に含んだ。 運んできたお盆の上にグラスを置く。


「うん」


 間接キスだなんてことも姉は気にしていない。


 彼女がしているように、弟の手が姉の背中と腰に回され 抱擁の形になることも自然な流れだった。


 たまたまなのか、はたまたわざとなのか、弟の体が姉の体に折り重なる。そのまま布団に倒れる。 


「感激だよ、姉ちゃん」


「あはは、熱烈だね」


 智樹の腕に込められた力は弛まない。


「ちょっと痛いよ」


「ごめん」


 抱きしめる力を緩めるが、彼の頬が姉の胸元に触れる。 頬ずりするように。普通の男女であれば、もう愛撫の域である。


 鈍感な姉の脳裏にもアラートが発せられつつある。


(あれ、もしかしたら、これってまずいのでは?)


 弟が姉大好きな 健全男子である事は分かっていたが、 今の密着度合いといいさすがに姉弟であってもスキンシップが過ぎるのではないだろうか。


 これが赤の他人、クラスの男子だったら襲われる寸前と言うか、もうすでに襲われてる最中だろう。


 あまりネットで漫画を読む習慣の無い姉だった。雑誌に掲載されている漫画でも実の弟に襲われるヒロインはあまりいない。大体は両親の再婚(厳密には優奈の両親もそうではあるが)で他人同士の男女が義姉弟(してい)か義兄妹(けいまい)になると言うご都合設定が多かったように思う。


 モゾモゾと弟の手が動いている。ペットは飼っていないが、飼い犬が全力で擦り寄ったとしても嫌悪感は抱かないし、親戚の幼児でもそれは同じことで、まだ弟の挙動をその延長線上に捉えている自分がいる。


 しかし、それが1分を超えて、2分3分と続くとどうだろうか。親戚の児童は男女問わず、優奈に会うとなかなかそばを離れたがらないものだった。


 弟がずっと無言なのがちょっと怖い。

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