第16話
「お母さんがいろんな男と……それは嫌だなあ」
「母さんにも女の幸せがあっていいと思う」
優奈にとってそれは自分たちの成長であってほしいと思う。それは子どものエゴなのかもしれないと思いつつ。
「姉ちゃんは嫌だったのか?」
優奈は家族が丸く収まってよかったと思っている。
「わたしも自分の親が違うパートナーとくっつくのは嫌だけど、それは受け入れなければいけないことだと思っている。だから元の夫婦に戻るのはよかったと思う。でもね」
優奈はこれを弟に確かめたかった。
「少し勝手だとは思う。そんな可能性があるなら最初から離婚しないでよと思わないでもない」
「それな」
弟も同意した。
「やっぱりあなたもそう思う? よかった。わたしだけじゃなくて」
「子どもを振り回さないで欲しい。でも、終わりよければ全てよしと許すべきかな。別れて初めて気づいたこともあるんだろうし」
弟の言葉に姉も感心した。
「あら、 大人っぽいこと言うのね」
「おれだってもうすぐ高校生だぜ?」
「高校生はまだ子どもでいても良いわよ」
時々、母親のようなことを言う姉だった。
「姉ちゃんこそ、若いのにお母さんみたいだな」
実際、姉の将来は良い母親になるのだろう、と智樹は思っていた。
「高校生はまだ子どもでいていいって言ったけど、姉ちゃん自身は含まれてないでしょ」
彼女自身もまだ高校生。2年生になる直前だった。
たった1年の歳の差なのに、彼女はずっと智樹に対して庇護者として振る舞っていた。
「そんなことないわよ。まるでわたしがあなたのことを束縛しているみたいじゃない」
弟はふっと笑った。
「もしそうだったとしても、俺は嫌じゃないよ」
「そうなの? じゃあ、一生、お姉ちゃんのそばにいなさい」
「え?」
スルッ、と優奈の腕が伸びた。姉は、弟の首に手を回してその肩を自分の胸元に引き寄せた。
「おいおい、姉ちゃん?」
ドクン、と智樹の心拍が跳ね上がる。彼の頬が姉の首元から鎖骨に接している。頬も紅潮していく。
「わたしは智樹よりも割り切れないところがある。大人なんだから、嫌なことがあっても子どもの気持ちを一番に考えて欲しかった」
確かに、こう言うところは智樹の方が大人なのかもしれない。
「何より、姉弟で引き離されちゃったし。もし、違うパートナーを選んでいたらこうして再び同じ家で暮らすことができなくなるでしょ」
姉は一縷の望みを捨てていなかったのだ。
姉の不満の一番大きな部分が自分との別れと聞いて、弟は嬉しかった。
「でも、いつまでも腹を立てていても仕方ないから前向きに考えるようにしたわ」
弟の首に回したままの手でグラスから一口お茶を飲む。
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