第二章 塔

「可愛く描いてよね。」

 木製の回転椅子に腰かけて、”心”は嬉しそうに楽に言った。

「人物画は苦手なんだ。」

「それだけ絵が上手かったら、人を描いてもうまいよ。大丈夫、自信をもって。」

 “心”の根拠のない励ましは、プラスにもマイナスにも働かなかった。

 初めて会って絵を見られたときから、“心”はことあるごとに楽に自分の絵を描いてくれと頼んだ。

 楽はずっと断っていた。それはもちろん“心”だからではない。

 絵画の中の人ですら、顔をかけない。まして生身の人間の顔なんて描けるはずがない。

 それでも結局は“心”の粘り勝ちという結果になった。

 楽が手早く全体の身体のラインを描いていった。

 本来“心”はスタイルがいい。出会った日の“心”は白い無地のシャツとデニムのショートパンツという露出の多い服装だった。長い手足は被写体として映えるなと思った記憶がある。

 しかし今日は、そんなスタイルを殺すようなぶかぶかの黄色のワンピースを着ていた。

お世辞にも似合っているとは言い難かったが、ファッションに疎い自分がどうこう言えた立場ではないなと楽は思い、何も言わなかった。

 普段から無機物のデッサンをしているため、楽にとって輪郭を捉えることはそこまで難しいことではなかった。

 頭以外の全身が描き終わった。ここまではいつも通りであった。

 そしてここからもいつも通りであった。

 楽は“心”の顔をじっと見つめた。

目尻は下がり、口角が適度に上がっている。血色の良い肌感は”心”の持つ優しい雰囲気を醸し出している。茶色の大きい虹彩と真っ白な眼球結膜。顎に小さいほくろがある。

「今、“心”はどんな気持ちでその顔を作ってるの。」

 楽は顔を描き始める前に、“心”に尋ねた。

「えっ。それってどういう意味の質問。」

「そのままだよ。どんなことを思って、その表情をしているのかって聞いているの。」

「それ答えないと、描けない?」

「描けない。」

 いや答えを聞いても結局かけない可能性も十分ある。けど、どうせ描くならそれくらいの報酬をもらってもいいはずだ。

「そっか。じゃあ教えるね。」

 “心”は唾を飲み込んだ。

「初めて、、、好きな人ができた時のことかな。」

 “心”は恥ずかしそうに俯いていた。

 楽は少し落胆した

 ちょっと“心”には期待していた。

どこか自分と同じような感性があるんじゃないかって。愛だ恋だという陳腐な答えなんかじゃなくて、もっと高尚な答えを。

「変なこと訊いてくるから、どんな顔してたかわからなくなったじゃん。」

 “心”は頬を赤らめて、笑った。

 楽は急にどうでもよくなった。別に元から力をいれて描こうとも思ってなかったけど、

 “心”の顔をみることもなく、ほとんど想像に近い“心”を描いた。

 できあがりの“心”の絵は自分でも意外なものだった。 

無表情の“心”。

 口角が下がり、輝いていたはずの目は、プラスチックでできた球体のようだった。

 微笑む“心”は、自分が描いた絵の中にはいなかった。

 どうしてこんな顔になったのか自分でもわからない。ただ早く終わろうと思って描いた。

「なにこれ。」

 “心”の声のトーンが下がる。

さすがに怒っているのか。

「だから言っただろ、人物画は苦手なんだって。見たまま描いたらそうなったんだから、仕方ないだろ。」

 楽は“心”の顔を見ずに言った。

 べつに“心”と喧嘩したいわけでもない。むしろ、とびきり可愛く描いて驚かせたかった。

 僕はただ拗ねているだけなんだ。ださいな、僕は。

 楽は自分に一番落胆した。

 “心”は立ち上がり、似顔絵を持って部屋をでようとドアを開けた。

「来週もまた描いてね。」

 そう言い残して、“心”は出ていった。


          *

哀川は苛立ちが抑えられなかった。

 有名アイドルグループの大麻所持の記事の取材があった。

 隠れ家風のバーに深夜に集まって男性アイドルグループと女性アイドルグループが大麻を使用して飛んでいたとのリークが、哀川達含め複数の週刊誌に動画付きでリークされたのがきっかけだ。

 こぞってメンバーに体当たりインタビューを行ったが、事務所の対応が早く誰とも接触することができなかった。

 動画では、上半身裸の男と乱れた服装の女が大麻らしきものを吸いながらカラオケをしていた。

 救いようがない。

 哀川には動画の女と前田が重なって見えた。

たとえこいつらが普段どれだけ良い人間だったとしても、私はこいつらの人格を全否定する。悪の道に進んでしまったのだから。

随分昔に線引きは終わっているはずなのに、どうして苛立ってしまうのか。

哀川は苛立ちで仕事効率が落ちている自分に、さらに苛立った。

 哀川がコアに帰ると、カレーの香りが食欲を刺激した。確かに今日は朝から何も食べていない。

 コアで料理をする人はいない。だいたい皆、外食か惣菜を買ってきて済ませることが多かった。

 リビングに入ると、“心”がカレーを皿によそっていた。

「哀川さん、おかえりなさい。」

 “心”はスウェット姿で哀川に笑顔を向けていった。

「ただいま。」

 哀川はソファに荷物を投げ捨て、勢いよく座った。


「ポイント稼ぎでも始めたの?」

「今日はお休みだったので。でもさすがに一日ごろごろしているわけにも行かないので、晩御飯勝手に作っちゃいました。」

「そうなんだ。でも皆外で食べたり買ってきたりしちゃうと思うよ。」

 哀川は意地悪に“心”に言い放った。

「いえいえ、いいんです。私が勝手に作っただけなんで。口に合うかもわからないので食べたい人が食べてくれれば。余ったら全部私食べますし。」

 “心”は全くでていないお腹を自慢げに叩いた。

 無邪気に話しかけてくる“心”に、哀川は毒抜きされたように肩の力を抜いた。

 脱力とともに哀川のお腹がなった。“心”がくすっと笑う。

「私食べてきてないから、食べていい?」

「ぜひ。」

 哀川はダイニングテーブルについてカレーを食べ始めた。

哀川の予想に反して、シンプルで家庭的なカレーの味に哀川は内心驚いた。勝手に水商売している若い子は料理ができないものだと思っていた。

 ライターとして先入観はよくないなと哀川は反省した。

「美味しくなかったですか?」

 洗い物をしながら、“心”は心配そうに哀川に尋ねた。

「あ、ああ、美味しいよ。ちょっと意外だったから固まってただけ。」

 哀川はそう言ってカレーを食べすすめ、結局お替りまでしてしまった。

 お替りするなんて、いつぶりだろう。

 そうだ、前田とよく通っていたカレー専門店以来か。

「こないだはごめんな。酔っぱらっていたのと嫌なことが重なったとは言え、初対面の“心”に失礼だった。本当にごめん。」

 哀川は素直な気持ちで謝ることができた。これも久々だった。

「いえいえ。私の方こそ急に押し掛ける形になってしまって、本当にすいません。ご迷惑なことはわかっていたんですが、私自身どうすることもできなくて。」

 “心”は何回も頭を下げた。

 必死に謝る“心”をみていると、哀川は面白くなってきて笑った。

「なんか、“心”って面白いな。」

 哀川は思ったことをそのまま言葉にした。きっと妹がいたらこんな感じなんだろうなと思った。

「哀川さんは今日何か嫌なことがあったんですか?」

 唐突に“心”が近付いてきて、哀川の顔を覗いてきた。

「どうしてそう思う?」

 哀川は顔を“心”から背けて訊いた。

「いやなんとなくですけど。こんな笑顔が素敵な人が、怖い顔で帰ってきたら何かあったのかと思うじゃないですか。」

 意外と他人のことを良く見ている子なのかもしれない。

哀川は今日の取材の事を“心”に話した。誰でもいいから、このヘドロのような気持ちを吐き出す先がほしかった。

「私嫌いなんだよね。大麻も大麻に逃げる奴も。」

 哀川の脳内で、足元に転がるかつての友人がちらつく。

「哀川さんは強い人なんだね。」

「これは強い弱いの問題じゃない。大麻は犯罪なんだから。どんな理由があっても間違った行為なの。」

 哀川はぴしゃりと断言した。

 “心”は哀川の隣に座って天井に向かってぽつりと言った。

「悪いことをする人は、皆悪人なのかなって。」

「どういうこと?」

 哀川は“心”のふわふわした答えに、苛立ちを覚えた。

「例えば安楽死。日本では違法なことだけど、心情的に理解できないことじゃない。寄り添って、患者と一緒に考えれば考えるほど、安楽死が正しいと思えることもある。数十年後には合法になっているかもしれない。だから、今が悪でも時代が変われば正義になることもある。そうは思いませんか?」

 “心”は言い終わってから、また洗い物に戻った。

 まだ幼さが残る“心”から意外な話がでて、哀川は動揺した。

「でもそれとこれとは話が、、、」

「同じですよ。今が悪でも正義にかわることなんてたくさんあります。もちろん逆もしかりですが。」

 哀川は何も言い返せなかった。

 “心”の考えに論破されたからではなく、いままで見たことのない無表情の女がそこにいたから。

 少し甘めの作りたてのカレーが、口の中にまとわりつく。


          *

喜内はいつもの通り、病院の前の停車中のタクシーに乗って聡美を待った。

 明日の予定を確認していると、今日も予定より早めにドアが開いた。

 長い脚が車内に入ってくる。

「だからいつも早いって言ってるだろ。」

 スマートフォンをいじりながら、特に何の感情も込めずに言った。

「いつもはどんな人がくるんですか?」

 普段と違う声が横から飛んできて、喜内は勢いよく顔を上げた。

 喜内の隣には“心”が座っていた。

 丈の長い大きめの白Tシャツからすらっと綺麗な素足を出して、喜内の方に笑顔を向けていた。

「なんで“心”ちゃんこんなところにいるの!」

 喜内は驚きを隠せずにいながらも、この聡美の誤解を招きそうな状況を打破しなければと頭を回転させた。

「いやぁ。喜内さんとお話したいなあと思っても、忙しそうだからなかなか捕まえられなくて。出待ちさせていただきました。」

 “心”は舌を小さく出して、喜内の顔を覗き込んだ。

 “心”の瞳が、喜内の胸の中にさざ波を起こす。

 とにかく早く“心”ちゃんを外に出さないと。

「もちろん僕も“心”ちゃんと話したいと思ってたよ。でも今日はちょっと予定あるから、また、、、」

 喜内が言い終わる前に、“心”は喜内のスマートフォンを取り上げた。

「運転手さん。もう向かっちゃってください。」

「はーい。わかりました。」

 運転手は後部座席のドアを閉めて、発車した。

「え。運転手さん。だめだって。まだ出発しないで。」

 喜内は慌てて運転手を止めるが、それを無視して出発してしまった。

 行先はまだ伝えていない。仕方がない。

 喜内はまずコアに向かうことにして、運転手にコアの住所を伝えようと運転席の方に身体をのりだそうとした。

 しかし、“心”が喜内の胸を押して、運転手に話しかけた。

「運転手さん。いつもと同じ店に向かってください。」

「わかりました。」

 喜内は驚愕した。

 “心”が自分の行動を把握していること。そして、“心”の指示に運転手が素直に従うことに。

 このタクシー運転手とは、別に個人的な付き合いがあるわけではないし、もちろんお抱えのドライバーでもない。

 それでも、自然とこの運転手のタクシーに乗るようにしているし、初対面のはずの“心”より軽んじられる筋合いなどない。

 何がどうなっているんだ。

 車内は静かだった。

 “心”は何も話しかけてこなかったが、“心”の香りが車内に充満する。

 頭にこびりついて離れない。“心”のこと以外考えさせてくれない。

 そんな個性的で強引な香り。

 脱線している思考をレールに戻している間に、バーについてしまった。

 今頃聡美から連絡が大量に届いているだろう。この状況を聡美が知ったら、弁明は難しい。現場にいる自分にだって理解しがたい。

 こうなったら、今日は“心”の相談にのってあげて、はやめに切り上げよう。聡美にはあとで謝罪をするしかない。

 “心”はタクシーを降りて、喜内が出てくるのを待っていた。

 さすがに、バーの事までは知らないか。であれば、わざわざバーに行かずとも、近くのカフェで話をして帰ればいいだけのこと。職場から離れた静かなカフェでいつも勉強をしているとでも言えば、そこまで不思議にも思われない。

 プランが整ったところで、運転手に代金を支払い車外にでた。

 外には、喜内の知っている“心”はいなかった。

 幼い顔立ちの“心”が、月夜の元で艶やかな女になっている。月の明かりをここまで身に纏うことができる人間がいるだろうか。

 聡美には申し訳ないが、これほど女を感じさせる人に初めてであった。

 喜内は何も言わず、何も考えず“心”をエスコートしてバーに入っていった。

「お待ちしておりました。」

 喜内と“心”を見ても、オーナーは何も言わず丁寧に頭を下げた。

 二人はカウンタ―につき、ビールで乾杯した。

「コアでの生活には慣れた?」

 喜内は型どおりの質問から会話を始めた。

「みんな優しいので、楽しくやってますよ。」

「そっか。哀川も大丈夫?」

「この前コアで一緒にカレー食べて仲良くなりました。」

 “心”は喜内にピースして笑った。

「それで話したいことってなんだったの。」

 喜内はキーとなる質問を取り出した。できるだけフラットに。心の高ぶりを抑えて。 

 いつの間にか、喜内は目の前の女に心躍らせていた。

 お酒のせいだろうか。それとも意外と自分は女に飢えているのだろうか。

「喜内さんは、自分が自分じゃなくなる瞬間がありますか?」

 “心”は喜内がトイレに行っている間に頼んだブルームーンを揺らしながら喜内に尋ねた。

 ブルームーン。

 ドライジン、バイオレットリキュール、レモンジュースでできたカクテルで、その神秘的な色から好む人も多い。

 とりわけ男女の駆け引きの場にでてくることも多い。

 今日は稀なことが起こると。

 そんなことを知ってか知らずか、“心”はブルームーンを味わっていた。

「そうだな。あるよ。僕にもある。」

 喜内はゆっくり丁寧に答えた。

 この類の質問には、共感以外の答えはいらない。

「僕は満たされたことがない。何をしても味気ないんだ。そんな僕がなんで外科医になって手術をしていると思う?」

 喜内の問いに“心”は首を傾げた。

「自分が望むことがある人は、自分がやりたい仕事をやればいい。逆に望む仕事がなければ、他人のために生きればいい。どうせ何をやってもつまらないなら、せめて世間の役にたった方がましだろう。少なくとも、僕にはそれができる能力があるわけだし。」

 半分は喜内の本心であった。何か真剣に物事を伝えるとき、すくなくとも五〇パーセントは真実でなければならない。これは喜内が日頃から気を付けているルールだった。

 もう半分は、、、。

「でも、そんな気持ちで手術をやっている時、僕は自分を遠くから俯瞰している。天井からね。身体が勝手に動いているという表現でもいいな。なんにせよ、その時僕は自分を自分だとは思えない。」

 抽象的な言葉は、便利だ。答えになっていなくても、勝手に相手は良いようにとらえてくれる。

「わたしもあるんです。いつも本当の自分がどれかわからなくなる。」

 予想どおり、“心”は涙を流していた。

「大丈夫。心配しないで。自分に正直に生きることは難しい。でもその涙は本物なんだろ。」

 喜内は“心”を抱きしめようとした。

「だめなの。」

 “心”は喜内の胸に手で押して離れた。

「それ以上私に優しい言葉をかけないで。」

 そう言って“心”は鞄をもって出口に向かった。

「でもありがとう。」

 そう言い残して、“心”は出ていった。

 喜内は動けずにいた。勝ちパターンだったのに。

 オーナーは何も言わず、奥の部屋に消えていった。

 急に自分が醜い生き物に思えた。

 二〇歳の女の子を必死に口説く、安いキャバクラにいるような滑稽なおじさん。

 決して驕っていたわけではない。

 ただ他人より努力をして、他人より少しいい容姿をもらった。だから当然報われるものだと思っていた。

 しかし、人生で初めて拒絶された。

 “心”を思い通りにできたら、僕はついに満たされるだろうか。


          *

今日は珍しく五人全員がコアに揃った。

 怒賀の二八歳の誕生日で、“心”と喜内が協力してお祝いしようと全員を集めた。

 普段の夕食が少し豪華になり、ケーキが追加されただけだが、“心”は当事者の怒賀よりも楽しそうにしていた。

 怒賀は恥ずかしさからか、いつもよりも口数は少なくなっていた。

 いつものことではあるが、テーブルでは喜内、哀川、“心”が話していて、楽、怒賀が相槌をたまにうつという形で時間が過ぎていった。

「それで。怒賀の今年の抱負はなんなの?」

 哀川がビール片手に怒賀に話をふった。

「えっと。抱負っていわれても。」

「なんだよ。なんでもいいんだよ、抱負なんて。仕事頑張るでも、彼氏作るでも。ただの定番の質問だろうよ。」

 相変わらず哀川の怒賀への当たりは強い。

「じゃあ、言いますね。えっと、あのー、今年の、目標は、えっと、告白する、、、こと。」

 怒賀の発言に、全員の食事の手が止まった。怒賀以外の四人の視線が怒賀に集まる。

「あ、やっぱり忘れてください。皆さん、そんなこと興味ないですよね。」

「いやいやそんなことじゃないよ。大切なことだ。頑張ってね怒賀さん」

 喜内は目を大きくして、怒賀の勇気ある発言を称えた。

「いいなぁ。愛さん好きな人がいて。私も恋したいなぁ。」

 “心”はアルコールのせいか、いつもよりも甘えた声で怒賀に言った。

「そんなことないよ。それに上手くいくかわかんないし。」

 怒賀はそう言いながらも、少し誇らしい気持ちに浸った。

 ただ、そんな気持ちになれたのも本当に僅かな間だった。

「あっ、私最近占いにはまっているんです。やっぱり恋愛相談とかしたくて。」

 “心”は怒賀の方を見ながら話した。

 怒賀の穏やかだった心に波が立った。

「女の子って占い好きだよね。どんなタイプの占いなの?」

 喜内は“心の話題に食いついた。”

「それが、タロット占いなんですけど、対面形式じゃなくて黒電話で話ながら占ってもらうんです。珍しくない?」

 “心”は喜内からのパスを、楽しそうに楽に投げた。

 楽は今日初めて口を開いた。

「たしかに珍しいね。で、どうだったの、占い結果は。」

「それはねー。教えなーい。」

 “心”は口元で指でバツをつくって意地悪そうに笑っていた。楽は“心”を少し眺めた後、顔色変えずにまたカルボナーラを食べ始めた。

 哀川は横目で怒賀の方を見た。

 怒賀はフォークにカルボナーラを巻き付けていた。口に運ぶ様子はなく、ひたすら巻いていた。

 先ほどまでのどこか嬉しそうな顔はもう無くなり、いつも以上に曇った顔をしていた。

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