第36話 弟子
「俺達はこれで失礼します」
話が終わり、俺と茜さんと雪城さんは立ち上がる。
「ああ。じゃあ明後日は頼む」
須波さんも立ち上がり、見送ってくれる。
「はい。お疲れ様です」
俺達は部屋から出ようと扉を開ける。
「あっ……」
扉を開けると一人の女性が目に入った。
「お疲れ様です」
「……
「はい。お久しぶりです」
俺の後ろから茜さんと雪城さんが出てくる。
「あれ?愛?なんでここに……?」
「………少し仁さんにお話があって……」
「えっと……2人の知り合いの方なんですか?」
「ああ。
「あとは仁君の弟子だよ。
「私の……姉弟子……」
愛は軽く頭をさげる。
「どうした?おっ、桃園か……。こんなところでどうしたんだ?」
俺達が話していると須波さんが顔を出す。
「……その……仁さんにお話があって……」
「どうしたの?」
「その……ここではなんですし、座れる場所に移動させてもらっていいですか?」
「うん。いいよ。どこで話そうかな……」
「俺の執務室を使うか?」
「えっ……」
「遠慮することはない。俺も少し休むつもりだ」
「……すみません。お願いしてもいいですか?」
「ああ。何なら俺達は外してもいい」
「いえ、ここにいる皆さんであれば大丈夫です」
こうして俺達は須波さんの執務室に戻り、全員が座る。
「すみません。私のために時間を作っていただいて」
「気にしなくてもいいよ。で、話って何?」
「いずれ発表されるんですが、私は「色付き」に選出されることになったんです」
「マジか……」
「そうなの!?」
俺と茜さんは驚く。須波さんは驚かないところを見ると知っていたようだ。
「選出されることが決まってから本部から任務が来たんです。その任務が……魔人型の
「魔人型か……」
「初めてにしてはだいぶ重い任務だね」
魔人型の
「茜さんはどんな任務でしたっけ?」
「確か……ステージ3の
「普通はそんなもんだな。どこに出現した魔人型だ?」
「沖縄です」
「「「おー……」」」
俺と須波さんと茜さんの声がハモる。ハモったのは全員が同じことを考えたからだろう。
「遠いな……」
沖縄と北海道は最も死神の戦力が不足している場所だ。ただでさえ不足しているのに「色付き」が2人減ってしまったのだ。だからこそ愛が派遣されることになったのだろう。
「魔人型の情報はもらっているの?」
「一応は……」
愛の表情を見る限り、有益な情報はもらってなさそうだ。
「断れなかったの?」
「…………はい」
愛は少し俯く。
「あのね……みんながみんな仁君みたいに上の人に噛みつけるわけじゃないの」
「ちょっ、俺がいつも噛みついているみたいな言い方しないでくださいよ」
「お前は噛みつくだろ……」
須波さんまで俺がいつも噛みついているという印象を持っているようだ。
「……その任務に仁さんに同行いただきたいのです」
「そういうことか……。双園基地には増員を手配してもらうことはできるの?」
「もちろんです」
「出発するのはいつになる?」
「今日です」
「今日か……。一日や二日で終わるのも難しいだろうし……」
俺は須波さんの顔を見る。
「こっちは人数は足りている。戦闘になる可能性も低い。行ってやれ」
「……はい」
「何か予定があったんですか?」
「いや、大丈夫」
さすがにさっきまで話していたことを愛に話すことはできなかった。
「他には誰か行くの?」
「……補佐官が同行してくれます」
「補佐官って誰なの?」
「そういえば補佐官は聞いてなかったな……」
どうやら須波さんも知らないようだ。
「皇(すめらぎ)さんです」
「まあ……妥当な人選だな」
「そうですね。超接近戦タイプの愛とも相性はいいですね。上手くいってないの?」
「そういうわけじゃないんです。ただ、皇さんのようなすごい人が自分の補佐官といきなり言われても困っちゃって……」
愛は俯く。
「なるほどな……」
皇さんはを一言で表現するなら大人な女性だろう。気遣いも仕事もできる有能としか言いようがない。そんな人がいきなり部下と言われたら確かに戸惑うだろう。皇さんは愛や俺よりも結構年上だったはずだ。俺は愛の気持ちがわかったような気がした。
「わかった。同行するよ」
「ほ、本当ですかっ!!」
「ただし、1つ条件がある」
「条件……ですか?」
「ああ。現地での指揮はすべて愛が執ること。これが条件だ」
「えっ……」
「あくまで俺は同行者で愛の部下として動く。もちろん意見を求められば、アドバイスはする。けど最終的に決定するのは愛だ」
この任務は死神協会が愛が「色付き」としてどれだけ動けるかを見る試験も含めた任務だと俺は感じた。だからこそ俺はこの条件を出すことにした。
「……わかりました」
「それがいいだろうな。今後は現場を指揮することも増えるだろうし、いい練習になるだろう」
須波さんも俺の意図をわかってくれたようだ。
「集合はどうしたらいい?現地集合?」
「えっと……」
愛は迷っていた。決めていなかったのだろう。
「……そうですね……」
俺が一度家に帰って用意することを考えるとそうするしかないだろう。
「わかった。すぐに帰って用意するよ」
「お願いします」
「あとは……」
俺達は必要な物や細かい日程の調整を行った。
「飛行機のチケットを取ったら連絡するよ」
「はい。おそらく私の方が先に到着するので空港まで迎えに行きます」
「それは助かるな。沖縄に行くのは初めてなんだ」
「そうでしたっけ?」
「うん。高校の修学旅行にも行ってないし」
「そういえば、お前卒業はできるのか?」
「実は……出席日数が足りてないんですよね……」
「え……じゃあ、留年ですか?」
「……ですね。いい機会だし、高校は辞めようと思っています」
「せっかくここまで通ったのに?」
茜さんはもったいないと言いたげだった。
「元々行く気はなかったですし、後悔はないです。師匠に少し申し訳ない気はしますが……」
俺が高校に行こうと思ったのは師匠の言葉があってのことだった。
「それにこれからも死神の仕事も忙しくなると思いますし、そっちの方がいいと思っています」
「……そうだね……」
茜さんも反論ができないようだった。
「…………仕方ない。俺が何とかしてやる」
「「えっ……」」
須波さんの発言に俺と茜さんは驚く。
「そんなことできるんですか?」
「……まぁ……できるだろう。俺が学校に話を通しておくよ」
「その……ありがたいんですが……須波さんってこういうこと嫌いですよね?」
「好きではないな……。完全に不正だからな。だが、お前を駆り出したのは死神協会だ。学生を本来許されない深夜労働させて、それで知らんぷりはダメだろう」
なんというか実に須波さんらしい言い分だった。
「助かります」
俺の口は自然と緩んでしまった。
「えー……それなら私の時も何とかして欲しかったですよ」
茜さんは不満そうに口を尖らせる。
「その時は俺はまだ権限もなかったからな……。桃園は高校は行っていなかったよな?」
「……はい」
「何とかしないとな……。学生を働かせるなんて正しいわけがないんだがな……」
「ですね……」
「死神が通える学校とか作られたらいいんですけどね……」
「……案は出ているんだが、実現は難しいだろうな……。おっと、すまない。話を逸らしてしまって。急ぐんだろ?」
「そうですね……。じゃあ、失礼します」
「2人とも沖縄の件は任せたぞ」
「「はい」」
俺達は須波さん達に頭を下げ、外に出る。
「じゃあ、現地で」
「すみません。私のために力を貸していただいて……」
「気にしなくていいよ」
愛は去っていった。
「さて……忙しくなりそうだ。雪城さん、明後日のことはお願いね」
「はい。銀崎さんも大変だと思いますが、頑張ってください」
「うん」
俺達のやるべきことは決まった。雪城さんの方は須波さんと茜さんがいるから大丈夫だろう。むしろ心配するのは俺の方だろう。魔人型の
(……何もなければいいけどな……)
白銀の鋏 リンゴ @apple81
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