第34話 報告会

「ここが死神協会本部……」


「うん。そうだよ」


 ステージ4の討伐が終わった次の日、俺は雪城さん、火村さん、須波さんと一緒に死神協会本部に来ていた。


「大きいですね……」


「まあ、中には色々な施設があるからね」


「さ、いくぞ」


 須波さんが俺達の前に出て歩き始める。


「はぁーあ、何で私まで招集されたんだろ?」


 茜さんはこの場に呼ばれたのが不服そうだ。


「その場にいたからじゃないですか?」


「別に私と心白こはくはいなくてもいいと思うんだけどな。戦闘したわけじゃないし……」


「それはそうですけど……。色んな視点から情報を聞きたいんじゃないですか?」


「……かもね……」


「私も樹里みたいに断れば良かったなー……」


「篁さんも呼ばれていたんですか?」


「うん。戦える人は基地に残った方がいいとか書類仕事が溜っているとかで断っていた」


「まあ……正論ですね」


 俺と茜さんは究極形成アルティメットクラフトを使用してしまっているので反転状態になることができない。基地にいてもやることがないのだ。


「でも、本音は死神協会本部に来たくないんだろうね」


「ああ……。やっぱりたかむらさんの家って……」


「そゆこと」


 俺達はステージ4討伐後に襲ってきた正体不明の2人についての報告のために死神協会本部に来ていた。俺達は寄り道をすることなくそのまま目的地に向かう。


「「お待ちしておりました」」


 俺達の目的地である白の間に辿り着くと、2人の女性が迎えてくれる。


「須波以下3名到着した」


「確認いたしました。中にお入りください」


 白の間の扉が開かれる。俺達は中に入り、着席する。死神協会の人間が何人も待機していた。そして、一番高いところにある7つの豪華な椅子にはまだ誰も座っていない。


(白の間を使うのか……。上は事態をそれだけ重く見ているということか……)


 死神協会本部には白の間、灰の間、黒の間の3つの専用の大きな会議用または報告用の部屋があり、内容によって使い分けされる。白、灰、黒の順に重大な内容を話し合うことが多い。内容もそうだが、参加者も違っている。


(……来たか……虹官こうかん……)


 俺を含め白の間にいる全員が立ち上がり、入室する虹官に頭を深く下げる。虹官は7人いて死神協会の最高権力者だ。死神協会本部が活動できているのは彼らのおかげだ。雪城さんには車でこのルールを教えていた。虹官7人は一番高いところにある豪華な椅子に座る。


「これより先日獄羊市にて出現したステージ4の亡霊ゴーストについての報告会を始めます。司会は前田が務めさせていただきます」


 スーツを着た前田という男性が報告会を進めるようだ。


「まずは責任者の木本所長より、出現から討伐に至るまでの報告をしていただきます」


 獄羊基地の所長の木本所長が席から立ち、部屋の真ん中に立つ。


「獄羊基地の木本が報告させていただきます。8月3日の深夜にステージ4の亡霊ゴーストが獄羊市中央に出現。獄羊基地に応援に来ていた火村、篁が斥候に向かいました。獄羊タワーにて同じく斥候に来ていた双園基地所属の銀崎、雪城と合流。火村が指揮を執り、4人がステージ4の亡霊ゴーストと交戦。敵の情報を集めることに成功しました。同時刻に討伐本部を作り、協会本部と周辺基地に応援を依頼しました。ステージ4の亡霊ゴーストは持ち帰った情報より巻貝の亡霊ゴーストと命名。以下、ステージ4の亡霊ゴーストは巻貝の亡霊ゴーストと呼称させていただきます」


 俺はふと部屋の中を見渡す。


(……「色付き」は……2人だけか……。まあ、妥当か……)


 基本的に「色付き」は全国を飛び回っているため、この場にいないことは十分予想できた。俺が見つけることができたのは「くろ」と「みどり」の2人だった。この2人と須波さんは基本的に死神協会本部に常駐していることが多い。


「8月4日の昼には須波、不二山姉妹が到着しました。作戦を立て17時に参加メンバーの全員に作戦を伝達。次の日の深夜に作戦を結構しました。作戦の詳細は後日の報告書をご覧ください。無事に巻貝の亡霊ゴーストの討伐が完了しました。しかし、事態はここで収束しませんでした」


 ステージ4の亡霊ゴーストの討伐でこのような報告会は行われない。大きな被害が出た場合や特殊なケースの場合のみ行われる。今回がまさにそれだった。


「火村、雪城が撤退中に謎の2人組に襲撃されました。間一髪のところで銀崎が到着し、そのまま銀崎が2人組と戦闘に突入。1人を戦闘不能にしたところで、須波が到着。敵は戦闘にはならず、撤退しました。撤退の際に竜を召喚し、街に大きな被害が出ました。以上です」


「木本所長ありがとうございました。質問がある人は挙手をお願いします」


 席からいくつか手が上がる。


「松坂部長、どうぞ」


「木本所長、この度はお疲れ様でした。先程街に大きな被害が出たということでしたが、どれくらいの被害が出たのかを教えていただきたいです」


「具体的な被害は昨日の今日ということもあり、報告させていただくことはできませんのでおおよその報告をさせていただきます。竜の出現点を中心に半径500mほどにビルの倒壊が発生しました」


「500m……!?」


「はい。その範囲内の建物や道路は軒並みやられています。周辺はオフィス街で人が多いというわけではありませんでしたが、一般人の被害者も出ています」


「対応方法は決まっているのですか?」


「はい。各種報道機関には地震で倒壊したということですでに報道されています。建物の倒れ方を見られても地震にしか思えないでしょう」


 その後も様々な質問が飛び、木本所長が対応した。


「襲撃を行った2人組についてどこまでわかっているのですか?」


「それにつきましては後に実際に戦闘を行った須波、銀崎からお話させていただきます。今の時点で質問が無ければ、交代しますがどうでしょうか?」


 席から手は上がらなかった。


「では、須波と銀崎に交代させていただきます」


 木本所長の話は終わった。


「いくぞ」


「はい」


 俺は須波さんと共に部屋の中心部に移動する。


「お疲れ様です。先程木本所長の話に出た襲撃してきた2人組についてお話させていただきます。2人組は若い男女のペアでした。男性は黒髪で身長は180㎝前後、女性は金髪で160㎝前後と身体的な特徴として報告することはありません。2人とも白いフード付きのコートを羽織っていましたが、それが2人の所属する団体を示しているのかは不明です。マークなども見た限りではありませんでした」


 須波さんは落ち着いて話す。話は須波さんがすることになっていて、俺は質問があった場合に答えるだけだ。


「2人とも実力は「色付き」と同格……いえ、それ以上と言ってもいいでしょう。2人とも非常に強力な能力を持っているうえに、戦闘能力も非常に高いです。並の死神では太刀打ちできないでしょう。私は少しの時間しか接触していませんが、それでも敵が格上ということはわかりました。あくまで私個人の意見ですが、2人は亡霊ゴーストではなく人間だと思っています」


 会場がざわざわとしだす。


「銀崎は少し会話をしましたが、受け答えもしっかりとしており明確な意思を感じたということです。報告は以上です」


「では、質問のある方は……あっ、ひいらぎ様お願い致します」


 虹官の1人から手が上がる。進行の前田さんは少し慌てていた。


「その話が本当であれば脅威だな。2人組の目的はわかるのか?」


「不明です。ただ、火村を襲撃した事実から予想すると「色付き」の殺害だと思われます」


「そうなると3カ月前の「くちなし」と「あんず」の2人も2人に襲われた可能性もあるのか」


 3カ月前ほど前の戦闘中に行方不明になったのが「くちなし」と「あんず」の2人だった。2人はステージ4の亡霊ゴーストの戦闘後に行方不明になったそうだ。


「可能性は十分に考えられます」


「戦闘を行った銀崎に聞きたいことがある」


 いよいよ俺に質問が飛んできた。


「2人の能力を聞きたい」


「直接聞いたわけではないので、予想になります。それでもよろしいでしょうか?」


「もちろんだ」


「男性の能力は未来視、女性の能力は分解だと私は予想しました。しかも、能力自体は究極形成アルティメットクラフトを発動させていない時点で発動させていたと思われます」


 会場が再びざわつく。


「詳しく話してくれ」


「はい。まず、男性の方ですが初見の攻撃を何度も躱しました。見切りのレベルを超えていると感じたため、未来視ではないかと感じました。あくまで私個人の体感ですが、そこまで先の未来は見えないと思いました。せいぜい3秒ぐらいでしょう」


「その未来視という強力な能力にどうやって勝利を収めることができたのだ?」


「戦闘をするうちに男性の未来視はかなり狭い範囲で発動しているのではないかと私は予想を立てました。男性が未来視できるのはあくまで私の動きだけで、私以外の動きは未来視できないのではないかということです。そこで私から独立して動くことのできる究極形成アルティメットクラフトで攻撃をしかけ、戦闘不能にしました」


 戦っていた時は無我夢中であったが、戦闘が終わって振り返ってみると色々と気づくことがあった。


「女性の能力は広い範囲の攻撃を一瞬で消す、離れた場所の狭い範囲のものを消すなどの恐ろしい能力でした。最初に女性の能力を見た時は消滅だと思いましたが、後にそれは勘違いであることに気づきました。気付いたのはビルの倒壊を見た瞬間です。もし能力が消滅であれば建物は破片もなく消えているはずです。しかし、建物はある程度規則正しく、壊されていました。そのため女性の能力が分解だと予想しました」


「なるほど……。それでも驚異的な能力であることは変わりないな。分解に対処法はあるのか?」


「分解自体を防ぐ術はないと思っています。防御を張っても、壁が心力マナに分解されます。ですが、分解の能力自体にたいした貫通能力は備わっていないと感じました。女性の攻撃を受けた時、防御は剥がされてしまいましたが身体にはダメージはありませんでした。防御を心力マナを使って固めるのではなく、2重に重ねるなどすれば対処自体は可能だと思います」


 実際にやってみないと確実とは言えないがこれが誰にでもできる手段だと思った。ただ、心力マナの消費は2倍になるので厳しい戦いになるのは間違いないだろう。それにあの女はまだ手の内を全部見せていないだろう。先程言った対策をしても正直勝てる気がしなかった。


「現実的な手段だな。死神全体で共有しておこう」


「お願いします」


「私からは以上だ」


「他に質問がある方は挙手をお願いします」


 前田さんの声で再び手がいくつも上がった。まだまだ報告会は終わらなさそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る