第33話 究極形成③
(向こうもその気だな……)
俺達は互いにゆっくりと距離を詰める。あちらも剣を持ち臨戦態勢だ。
「はぁっ……!!」
まず飛び出してきたのは男だった。俺は女に銀狼を多めに向かわせる。
「はっ!!」
俺の鋏と男の剣がぶつかり合う。そして、足が止まったところを銀狼が噛みつく。
「そう来ると思ったぜ」
男は瞬間移動をして俺の背後を取る。それは銀狼の目を通して確認できた。俺は鋏を背後に投擲する。
「甘いっ!!」
男は鋏を叩き落とし、俺に斬りかかる。男の身体が宙に浮く。
「そこだっ!!」
俺はカウンター狙いで鋏を突き出す。空中に入れば未来が見えても攻撃を避けられないと考えたのだ。
「なっ……」
しかし、俺が突き出した鋏の先は消えていた。
「俺の勝ちだ」
「ぐぁっ……!!」
俺は肩から腰に掛けて大きく切られる。俺の身体がよろけた隙を男が逃すわけがなかった。男は俺の首を刎ねようとする。
「は……」
しかし、それは叶わない。男の右腕は鋏で切り落とされていたからだ。
「なっ……どこから鋏が……」
男の声は明らかに動揺していた。
「はぁぁっ!!」
俺は痛みに耐えながら男の首を刎ねた。
「がぁぁぁっ……!!」
首を刎ねた瞬間、男の身体は反転状態から元の状態に戻る。
「……やっと一人……」
「お、お前っ……!!」
男は首と腕を抑えながら俺を睨む。
(死んでいない……。俺は殺す気でやったのに……)
ダメージは甚大だろう。戦いにすぐには参加できない。
「…………あの狼は鋏なのね」
「……ああ」
女は俺がどう攻撃を行ったのか理解したようだ。銀狼の正体は鋏なのだ。姿を銀狼から鋏に変えて、男の腕を斬り飛ばしたのだ。
「興味深いわ。狼には意思があるのかしら?」
「そんな馬鹿なっ……!!」
「あなたがやられたとなるとそう考えるしかないわ」
「…………」
俺は内心驚いていた。一度しか見せていないのにそこまで分析されるとは思っていなかった。女の予想は当たっている。俺の
「目標を変更するわ。彼を始末する」
「!!」
女から凄まじい殺意があふれ出る。殺意だけでここまでビビったのは師匠以来だった。
「…………」
俺は鋏を構え、銀狼を出現させる。ダメージを受けた状態で戦うのはかなり厳しいが、逃げるわけにはいかない。
「そこまでだ」
俺の背後で声がする。俺の口元は緩む。
「……遅いっすよ……」
「……「
女がゆっくりと言葉を口にする。
「待たせたな。奴の能力は?」
「女の能力は消滅だと思われます。武器は剣を使っていますが、あの男が使っていた
「男はお前がやったのか?」
「はい。しばらくは戦えないと思います」
「まだいけるか?」
「……はい」
1人だと厳しい状況でも須波さんと一緒であれば何とかなる気がしてきた。
「全開での戦闘はできて5分だと思います」
「充分だ。3分で終わらす。補助を頼む」
「わかりました」
須波さんから青い
「……ここまでね……」
女は俺達に背を向ける。
「俺はまだっ……!!」
「逃げるのか?」
須波さんは女に問いかける。
「ええ。「
「でも……」
「そもそもあなたがやられるのが想定外なのよ」
「う……」
俺と須波さんが臨戦態勢であるのにも関わらず、女は余裕そうに男と話している。
「須波さん、どうします。仕掛けますか?」
「…………」
須波さんにしては珍しく返事がない。須波さんはわずかな時間だが女のヤバさを理解したようだ。
「…………逃がすわけにはいかないな……」
「ええ……」
「行くぞっ!!」
俺達は一斉に地面を蹴る。須波さんは前進し、俺は真横の高いビルに飛び移る。
「
須波さんが
「…………………」
女はその様子を見ても焦らない。
(どうするつもりだ……?消滅させても波は次々と襲い掛かってくるぞ……)
俺はその様子をビルの屋上から眺める。女はゆっくりと右手を上げる。
「
「!!」
雷が落ち、轟音が周りに響き渡る。俺はあまりの眩しさに目を開けていられない。
(雷を落としたのか……?須波さんは……大丈夫なのか?)
俺は目を開く。
「……は……?」
目の前に広がった光景を見た瞬間、間抜けな声を上げてしまう。
「……何だ……あれ……?竜……?」
俺の目線の先にいたのは巨大な黄色い竜だった。
「ガルラァァァァっ!!」
黄色い竜が咆哮を上げると、須波さんが作り出した津波は消える。
(あいつらは……どこだ?)
先程まで俺が戦っていた2人の姿は見当たらない。
(とにかく俺も加勢しないとっ……!!)
ビルから下りようとした時だった。竜が動き出す。
「っ……!!」
俺はビルから飛び降りる直前に足を止め、全体防御で自身を包み込む。竜はゆっくりと空を見上げる。
「あいつら……あんなところに……」
竜の頭の上に人影が見えた。
「ホロォォォォ……!!」
竜が咆哮すると、竜をまばゆい光が包む。その瞬間だった。
「ぐあぁぁぁぁぁっ……!!」
わけがわからないまま吹き飛ばされる。
(これは……目に見えない衝撃波!?防御が一瞬で剥がされたっ……!?)
俺はビルから落とされてしまう。
「くっそっ……何とか受け身を取らないと……。え……」
ふと先程までいたビルを見ると、ビルが上の方から崩壊していた。
「まさかっ……!?ぐあっ……」
俺は地面に叩きつけられる。
「俺が無事だったのは……防御を張っていたからか……。何っ……!!」
一息ついたのも一瞬だった。崩壊が始まっていたビルが俺の方に崩れる。
「やばいっ!!」
俺は全力でその場から離れる。
(そんな……町が……)
目の前のビルと同じようにビルがいくつも崩壊していた。
「くっそ……」
悔しさを滲ませながら俺はその場から離れる。
「はぁっ……はぁ……」
ようやく建物の倒壊が終わった。
「…………」
俺はその光景に言葉を失う。目の前に広がっていたのは悲惨としか言えない惨状だった。ビルは倒れ、道路は割れている。大きな地震が起こった後のような光景だった。
「みんなは……無事なのか……?」
通信は繋がらなくなっており皆の無事は確認できない。
「くっそ……俺も限界か……」
「!!」
その時、空に光の球が上がる。
「誰だ?」
茜さんではないことは確定なので、おそらく雪城さんか須波さんだろう。俺はゆっくりと光の球が上がった場所に向かう。
(足が……重い……)
全力で戦った影響で身体はボロボロだった。今、
「ぎ、銀崎さんっ……よ、良かった……」
5分ほど歩くと雪城さんと茜さんと合流することができた。雪城さんは今にも泣きだしそうだった。
「2人とも無事で良かった……。須波さんは?」
須波さんは2人と一緒にいなかった。嫌な予感が頭をよぎる。
「無事だよ。仁君より5分くらい前に到着したよ。今、助けを呼んでくれているよ。あっ、戻ってきたみたい」
「お前も無事だったか。良かった……」
須波さんは俺を見て安堵した表情を浮かべる。
「被害は大きいが、最悪の状況は回避することができたな……」
「……ええ……」
俺達は崩壊した町を見つめる。今回の場合最悪なのは、死神側に犠牲者が出てしまうことだ。ただ、この惨状を見て誰も良かったとは言えなかった。
「もうすぐヘリが到着する」
「車は無理そうですもんね……」
「ああ。報告は明日以降にしよう。俺もさすがに疲れた」
「「「了解」」」
ヘリが近づいてくる音が聞こえてきた。
(……長い夜だった……)
ようやく夜が終わった。
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