第32話 究極形成②
「…………」
白い服の人物は無言で雪城さんから離れる。
「!!」
目で追えなかった。
(……速い……?いや、そういう次元じゃない。あれは……瞬間移動だ)
雪城さんの瞬間移動を見ていなければ、気づけなかっただろう。
(……どうする?2人には一刻も早くここから離れて欲しいが、相手が瞬間移動を使ってくる以上危険だ。かといって2人を守りながら戦えるほど……甘い相手ではないことは確実だろう。しかも、もう1人いる……)
先程、雪城さんを斬ろうとした奴のレベルが相当高いのはわかった。もう1人も同じぐらいのレベルという可能性も十分考えられる。そして、もう1つ気になったのは2人の持っている剣の形が同じだということだ。
(茜さんが戦えれば、色々と変わっていたんだが……)
それは言っても仕方がないことだった。
「仁君、私達のことは気にせず思いっきり戦って」
茜さんの声が背後から聞こえる。
「私達を守れながら戦えるレベルの相手じゃないよ」
「ですが……」
「私も心白も死ぬ覚悟はとっくにできてる。それよりもあいつらをこのまま野放しにしておく方がマズイ」
「…………」
茜さんの言うことはもっともであった。
「……わかりました」
俺には選べるほど選択肢はなかった。今は攻撃は最大の防御という言葉を信じるしかないだろう。
「あいつら……
「ええ……おそらく……」
「そうなんですか……?」
雪城さんは信じられないという様子だった。最初に見た時は魔人型の
「雪城さん、茜さんを含めて防御を。できれば100mほど後退してくれ。あと、俺が後ろを見れば確認はできるようにしてて」
「……はいっ!!」
俺は右手を胸に置く。そして、青い
「我が心、今ここに顕現せよ」
そして、正面の2人を睨む。
「煌めく星は遥か彼方から我らを見下ろす。距離は無限と思えるほど遠く、遠く、遠く……誰の手にも触れない不変なるもの。銀狼は煌めく星を睨み、大きく吠える。その咆哮は闇夜に響き、空を裂き、星を呼び寄せる引力となる。その鋭き爪で星を裂くために。明確な理由はなく、ただ本能で星を求める。届かぬものだからからこそ求めるのだ」
青い
「
俺の手には銀色の鋏が握られていた。そして、俺の隣には1匹の銀狼が並ぶ。
「いくぞ」
「…………!!」
やはり目の前の人物は何も話さない。顔は見えないが、俺のことを睨んでいるような気がした。
(……本当は捕らえて色々と話を聞きたいところだが……そんな余裕はないだろう。殺す気でやろう)
目の前の奴らは何者なのか、目的は何なのか聞きたいことは山ほどあった。しかし、今優先すべきことは雪城さんと茜さんを守りきることだ。
「!!」
目の前の人物が消える。瞬間移動だ。瞬間移動の恐ろしいところは、本当に一瞬消えることだろう。それまで
「がっ……!!」
しかし、俺の
(外した……?こいつ、やっぱり只者じゃない……!!)
俺は身体を真っ二つにするつもりで攻撃した。しかし、鋏は男の右太ももに刺さっただけだ。不意打ちという有利な状態で攻撃したのにもかかわらずだ。
(どうやって攻撃を避けたんだ……?奴の能力か?)
俺は動きの止まった奴を仕留めるために鋏で斬りかかる。しかし、男は瞬間移動で躱した。
(何度も同じ手が通用すると思っているのか?)
瞬間移動はすでに対策済みだった。
「そこっ!!」
男は俺から少し離れたところに瞬間移動していた。男は俺の周りの一定の距離に入れば自動で攻撃する能力とでも考えたのだろう。
「ぐうっ……!!」
男の右腕が飛ぶ。しかし、これは狙い通りではなかった。俺は先程と同じように奴を半分にしてやるつもりだった。
「…………」
男はフードを取る。目には怒りというよりも疑念という感情が乗っているように思えた。
「……お前……何者だ?」
「何者?それはこっちのセリフだ」
「質問を質問で返すな」
「こいつ……」
なんともえらそうな態度であった。どういう考えで会話をしているのかが意味が分からない。しかし、会話をしてくれるというのは情報を聞き出すチャンスであった。
(少なくともこいつは
魔人型に会話ができるタイプもいるというがここまで流暢には話せるタイプは見たことがない。
「……俺は銀崎 仁だ。死神だ。これでいいか?」
「そんなこと知っている」
「は?じゃあ、何を聞いているんだ」
「お前はこっち側か?」
「……こっち?」
男はふざけているようには見えなかった。明らかにこちらに重大な情報が不足している。
「それはどういう……」
「ストップ。それ以上はダメよ」
もう一人の白い服の人物が会話に入ってくる。こちらは声からして女性だ。
「……わかっているさ」
「彼の正体は気になるところだけど、今はそんな時間はないわ」
「ああ……」
「厄介そうだから2人でやるわよ」
女性もフードを取る。好戦的な目を俺に向ける。
「そうだな……」
「!!」
俺は男の腕が再生していることに気づく。太ももの傷もだ。
(回復……?それにしては……早すぎる)
先程の攻撃の避け方といい、規格外のことが多すぎる。
(こいつら……マジで何者なんだ?)
強さは「色付き」と互角以上と見ていいだろう。
「……ふうーーーー……」
当たり前ではあるが2対1というのは1の側が圧倒的に不利だ。実力差があれば跳ね返せるが、今回は違う。
「はぁっ!!」
俺が鋏を振るうと銀狼が増える。
「「!!」」
その光景に2人は驚いている。
「こいつ……マジか……」
銀狼は100体ほど出現している。
「いけっ!!」
俺が指示を出すと銀狼は一斉に2人に向かって駆ける。俺も狼に紛れて移動する。
「くそがっ!!」
男はわかりやすくイラついていた。一方で女は冷静に剣で銀狼を切り裂く。
「これは……」
銀狼は消滅した。増えた銀狼はそこまでの耐久力はない。攪乱と攻撃の補助が主な仕事だ。
「はぁっ!!」
俺は男が銀狼を倒した瞬間に隙をついて鋏で斬りつける。
「っ……!!」
「浅いかっ……」
男は俺が斬りかかる一瞬の前に後ろに下がったのだ。
(こいつ……まさか……)
先程の動きといい明らかに見切りの段階より一段上の動きをしている。
(少し先の未来を見ることができる……?まさか……こいつ……もう既に……
不二山姉妹のように
「なっ……」
女の周りにいた銀狼が一瞬で消滅させられた。
「!!」
俺は大きくジャンプをする。すぐに先程いた場所の地面の一部が大きく盛り上がったのだ。
「くらえっ!!」
俺はジャンプすると共に鋏を投擲していた。しかし、鋏は2人に当たっていない。2人に向けてまっすぐ放ったが消滅していた。
(消滅……!?)
分析できる余裕がある相手ではない。
「くっ……」
目の前には女性が瞬間移動してきており、俺は振られた剣を紙一重で躱す。しかし、後ろからは男性がワンテンポ遅れて攻撃してくる。
「そっ……!!」
俺は足元から
(……こっちが反応できても避けられない速度で攻撃してくる……。これは……苦しいっ……)
先程の攻撃は俺を最短で殺しにきた攻撃だった。
「あれを躱すなんてやるわね」
「……あんたたちも並のレベルじゃないな」
余裕があるように笑みを見せる。
(……さて、どうするか……)
俺の
「はっ!!」
俺は空に向かって右手を上げる。すると空には大量の鋏が出現する。
「「!!」」
「いけっ!!」
2人に向かって、鋏の雨を降らせる。さらに銀狼も大量に出現させる。
「私がやるわ。少し離れていて」
男が大きく離れる。先程と同じように光が女性を包み込む。
(今だっ!!)
俺は鋏を高速で飛ばす。先程、同じような攻撃をした時に一瞬溜めがあったのだ。しかし、鋏が届くほんの前に光は放射された。鋏と銀狼はほとんど消滅させられる。
(タイミングが僅かに遅れたか……。それより……この女、ヤバいな……)
男の方もヤバいが個人的には女の方がもっとヤバいと感じた。あれだけの広範囲攻撃であれだけの威力を持っているのは危険すぎる。
(さっきの手段はもう使えないか。やはり乱戦でわずかな隙をつくしかない)
鋏を大量に出しても女に消される以上、
「ふうーーーー……」
俺は鋏を2つに分離し、両手で持つ。さらに周りに銀狼を大量に出現させる。
「さあ……ここが踏ん張りどころだ」
俺もあちらも長期戦は望まないところだ。決着の時間は刻一刻と迫ってきていた。
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