第31話 究極形成①
「……頃合いだ。火村、始めろ」
須波さんから指示が入る。
「了解」
茜さんは目を閉じ、右手を胸に置く。そして、茜さんの周りから赤い
「我が心、今ここに顕現せよ」
空気が変わるのを私は感じた。
「私は
それはとても悲しい唄であった。
「
まるで茜さんの人生を語っているようにも思えた。憧れ、後悔などを語っているように感じた。
放出していた赤い
「
「!!」
茜さんの手には刀が握られていた。見た目はいつも茜さんが使用している刀と変わらないように見えた。しかし、中身が全然違っていることは私にもわかった。
「さっき話したけど
「…………なるほど……」
「さ、行くよ。フォローお願い」
「……はい」
茜さんは巻貝の
「防御、しておいてね。火傷じゃすまないから」
「はいっ……」
私は慌てて自分の身体を防御で覆う。
「…………」
茜さんは刀を頭上に構える。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
次の瞬間、刀から特大の炎が湧き上がる。炎の柱は雲をかき消し、暗い空を明るく照らす。
(っ……!!熱いっ……。防御しててこれってことは……)
周りの建物を見ると熱で窓ガラスが割れていた。それだけのエネルギーが発生しているということだ。
「やあぁぁぁぁぁっ!!」
そして、刀を大きく振り落す。
「え……」
あれだけあった炎が一瞬で消え、刀は地面を割る。
(炎は……どこに……?)
次の瞬間だった。激しい爆発音と共に巻貝の
「す、すごい……。これが……
「
須波さんが形成をする声が聞こえる。
「はっ……!!」
巻貝の
「「
不二山姉妹が
「もうすぐ巻貝が割れる。割れ次第攻撃し、
須波さんが指示を出した数秒後に、巻貝が割れる。そして、巻貝の中から軟体の生物が出てくる。
「なっ……」
「雪城、何をしているっ!!早く
私が唖然としていると須波さんから怒号が飛ぶ。その声からは焦っているようにも感じた。
「はいっ……!!」
「どこにっ……あるのっ……!!」
私は必死に
「早く探せっ!!逃げられるぞっ!!」
巻貝の
「もしかして……
茜さんの声も動揺していた。
「探せっ……!!」
「わかってますよっ!!けど、こんなに早く身体を広げられると私たちの手じゃ足りないですって」
「現在、標的の
篁さんは動きを報告する。
「川だっ!!北側に大きな川がある。地下に逃げないなら、そこから逃げる可能性が高い」
須波さんが通信で知らせる。皆にこの半透明で川に逃げられたら、もう追えないのは確実だった。
「っ……!!」
無慈悲にも時間が過ぎていく。
「
驚くことに
(えっ……嘘……。一番遠いのに……なんで……)
不二山姉妹がいた場所は巻貝の
「さすが……いい目をしている。全員、標的から距離を取れっ!!」
須波さんの指示で私は
「!!」
すぐに極太の光が美しい放物線を描いて、高速で落ちてくる。あれがとんでもない威力を持っているのは直感でわかった。
「きゃっ……!!」
「……終わった……の……?」
あまりにもあっけなさ過ぎて間抜けな声が出てしまう。
「……うん。終わったよ」
茜さんが私の隣に移動してくる。巻貝の
「私……何が起こったのか……わからなくて……」
「不二山姉妹の
「目……ですか?」
「そ。
「なるほど……。すごい……」
「本当にすごいよ。彼女がいるだけでこっちはめちゃくちゃ情報を得ることができるんだ。さらに、その目を千鶴と共有することができる」
「…………そんなことが……」
「私も初めに聞いた時、耳を疑ったよ。いくら双子でもそこまでできるのは不二山姉妹しかいないんじゃないかな。で、視力を共有して千鶴が狙撃するって戦法だね」
「今回お二人がいて本当に助かりましたね……」
「2人がいなきゃ、逃げられてた可能性が高かっただろうね。あっ、私はタイムアップだ。これじゃ残党狩りに行けないや……」
茜さんの身体が反転状態から元の身体に戻る。どうやら
「私、行ってきます」
「うん。お願い。大丈夫だと思うけど、樹里と一緒に動いて」
「わかりました。その前に茜さん、基地まで送りますよ」
「……そうだね。お願いしようかな。
「任せてください。失礼します」
私は腕に
「樹里、聞こえる?」
「はい。聞こえています」
「今から作戦基地に向かうから、そこで心白と合流して残党狩りに向かってもらっていい?」
「わかりました。すぐに向かいます」
篁さんとの通信が終わる。ふと巻貝の
「待て。一度、不二山姉妹のいる建物に集合しろ。全員だ」
須波さんから指示が入る。
「え……?」
「何で……?」
私は意味が理解できなかった。それは茜さんも同じようだ。須波さんはそのまま北側か南側のどちらにすぐに向かうものだと思っていたからだ。
「命令だ。早く来い」
理由も詳しく話さず言われたため、正直納得できなかった。これまで効率を重視していた須波さんとズレを感じる。
「納得はできないけど……行くしかないね」
「……はい」
確かに作戦基地よりも不二山姉妹がいる建物の方が近い。しかし、茜さんをこのまま戦闘区域に置いておけないので作戦基地に向かった方がいいのではないかという考えが頭をよぎる。しかし、作戦の指揮は須波さんにあるので逆らうわけにもいかない。私は方向転換して、不二山姉妹がいる建物に向かう。
「…………」
茜さんは須波さんの真意を考えているようだった。
(……私には……わからないな……。後で聞いてみよう)
私は交差点を曲がる。あと1kmほど直進すれば目的地だ。
「「!!」」
私の足が止まる。目の前には全身白い服を着て、フードを深く被っている2人が道を塞いでいた。
「心白っ、逃げてっ!!」
焦った茜さんの声に私は白い服の2人から目を離してしまう。
「……っ……!!」
私は倒れていた。茜さんもお姫様抱っこされていたため、一緒に倒れる。私達の身に何が起きたのが全く分からなかった。
「何が……起こっ……」
瞬間、殺意を感じる。目の前には白い服の人物が足音もなく移動してきており、迷いなく私の首を刎ねにきていた。何で狙われているのかを理解する暇も与えてくれなかった。
「ぁ……」
私は本能的に察した。ここで死ぬのだろうと。茜さんの逃げろという声がやけにスローモーションに聞こえる。私の身体が動かなかった。
キィィィィン!!
目前で金属がぶつかり合うような音が響く。
「……ぎ、銀崎さん……」
私の首は刎ねられなかった。理由は首を刎ねられる前に銀崎さんが迫りくる一撃を防いでくれたからだ。
「…………お前、何者だ?」
銀崎さんの視線は私ではなく白い服の人物に注がれていた。
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