第28話 不二山姉妹
「遅いよー。どこで油売ってたの?」
作戦室に戻ると茜さんに俺は捕まった。どうやら俺を待っていたらしい。
「飲み物を買いに行ってたんですよ。近くの自動販売機はブラックしかなくて」
「ブラック苦手だったね。ん?けど結局持ってるのブラックじゃん」
「…………間違えて買ってしまったんですよ。というかまだ残ってたんですね」
「仁君を待ってたの。これから不二山姉妹に会いに行くんだ。心白のことを紹介しようと思って。仁君も一緒に行こ」
「え……俺もですか?」
「うん。一応、知り合いだよね?」
「数年前に任務で一緒になっただけですよ。あっちは覚えているかも怪しいです」
「じゃあ、仲良くならないとね」
茜さんは俺の背中を押す。もう帰ることはできなさそうだ。
(何でそうなる……?)
ちなみに山村さんはもう作戦室からいなくなっていた。
「わかりましたよ……。行きますって」
こうして俺は茜さんと篁さん、雪城さんと一緒に不二山姉妹に会いに行くことになった。
「不二山姉妹っていうことは……姉妹なんですか?」
「うん。双子だ」
「「色付き」って通常は1人なんだけど、不二山姉妹は特別なんだ。2人で「藤」なんだよ」
「2人で……?」
雪城さんは頭の上にはてなマークを浮かべる。
「1人でも能力は完結してるんだけど、2人になるとさらにすごくなるんだ。だから特別に「色付き」になれたんだ」
「どんな能力なんですか?」
「弓と矢だね。不二山姉妹は遠距離攻撃のスペシャリストなんだ。2人以上の距離からで2人以上の精度の遠距離攻撃ができる死神はいないよ」
「そういえば……さっき須波さんが狙撃するって言ってました……」
「さ、着いたよ」
火村さんは扉をノックする。
「はい。どちら様ですか?」
「火村です。お邪魔してもいい?」
「どうぞ」
「え……ちょ……」
俺達は部屋に入る。部屋の中には3人の女性がいた。
「何か用?私達これからホテルに移動するところなの」
黒髪ショートカットの女性が少し不機嫌そうに話す。彼女は不二山姉妹の妹の
「そうだったんだ。ゴメンゴメン」
「大丈夫ですよ。すぐに行かなければいけないというわけでもありませんし」
車椅子に乗っていた黒髪ショートカットの女性が落ち着いた声で話す。彼女が不二山姉妹の姉の
「あら……もしかして銀崎さん?」
「お久しぶりです。銀崎です」
「本当にお久しぶりですね。以前お会いしたのは2年前の蛸の
「ええ、そうですね」
「さすがの感知能力だね」
「伊達に長い間この能力を使ってはいませんよ」
千早さんは幼い頃から目が見えない。しかし、第六感とも呼べる感知能力を持っている。視力がない代わりに、他の器官が発達したというやつだろう。
「今日は心白の紹介をしておこうと思ってね。明日の作戦で一緒のチームになるわけだしね」
「確かに一緒のチームではあるけど、私達とは一緒に行動しないじゃないの」
「それでもだよ」
茜さんは雪城さんの背中を押し、前に立たせる。
「ゆっ、雪城 心白です。今回はよろしくお願いします」
雪城さんは緊張しているようだった。
「よろしく」
「せっかく挨拶に来てくださったのにそんな素っ気ない挨拶をしちゃダメでしょ」
千早さんは姉っぽく千鶴さんを注意する。
「ごめんなさいね。この子はいつもこうなの。私は不二山 千早。隣の妹は千鶴よ。明日の作戦はよろしくね」
「はいっ……!!」
「……これで終わりね。伊織、行くわよ」
「はい」
千鶴さんは補佐官の伊織さんを呼びつける。伊織さんは短く返事をして、荷物をまとめる。
(……大変そうだな……)
前に会った時も同じことを思った記憶があった。
「もう……千鶴ったら……」
千早さんはため息をつく。
「気にしないで。元から長居するつもりはなかったし」
「ありがとうございます。では……」
伊織さんが大きめのリュックを背負い、千早さんの車椅子を押す。千鶴さんも部屋を出て行こうとするが、足を止める。
「この作戦はあんたがとちると終わりなんだから、しっかりしなさいよね」
「おっ、私の心配?珍しいこともあるもんだね」
「……相変わらず良い根性してるわね……」
「それはお互い様だよ。それにとちって終わるのは私だけじゃないよね?そっちもだよね?」
「私が外すと思ってるの?」
「思ってはいないよ。けど、相手はステージ4だ。何があってもおかしくはない」
「お生憎様。私だけならともかく、千早がいるのよ」
「うん、わかってる。2人の狙撃は百発百中。さらに死神の中でトップクラスに防御が硬い伊織君もいる。隙が無い」
「わかってるじゃないの。ならいいわ」
千鶴さんはそれだけ言い残して去って言った。
「………………何か……強烈な人たちでしたね……」
3人の姿が見えなくなってから雪城さんが独り言のように話す。
「あれでも「色付き」の中じゃまともな方だよ」
「え…………」
雪城さんはすごい勢いで茜さんの方を振り向いた。
(…………間違ってはいないか……)
確かに「色付き」の中には明らかにまともじゃない奴はいる。しかし、それはごく一部だ。
「そんなに脅さなくてもいいんじゃないですか?本当にまともじゃないのって「
「あーーー……」
篁さんは納得いった表情を浮かべる。俺が名前を上げた2人は悪い噂が多いのだ。当然俺だけじゃなくて、皆の耳にも入っているようだ。
「あの2人は……うん……。けど、私もヤバい奴でしょ?」
「「…………」」
「??」
俺と篁さんはどう答えていいのかわからず黙り込む。雪城さんは本当にわからないといった様子だ。
「確かに死神協会本部から見たらヤバい奴でしょうね。戦闘すればするほど建物とか地面に被害出してるんですから」
「…………かもね」
茜さんは何か言いたそうではあったが、言わなかった。
「さ、俺達も解散しましょうか」
「そだね。2人ともしっかりと休息をとってね」
「はい」
「明日はお願いします」
こうしてこの場は解散し、俺と雪城さんは基地に戻り歩き始める。
「私……大丈夫ですかね?」
「明日の作戦のこと?茜さんに理由を聞いたんじゃないの?」
「聞いたのは聞いたんですけど……。その……あまり理由が具体的じゃなくて」
「私が必要だと思ったから……じゃない?」
「えっ……何で知ってるんですか?」
「茜さんはそういうこと平気で言うから。結構……かなり人たらしなんだ」
「ふふっ、それは知ってます」
「茜さんは雪城さんを必要だと思ったから選んだんだ。それだけは間違いないよ。俺も茜さんの立場なら雪城さんを強引にでも選んでる」
それなりに茜さんと付き合いのある俺でも茜さんの思っていることや意図が全部わかるわけではない。ただ、昔から無駄なことはしない人だった。
(……ステージ4との戦闘を間近で見て欲しかったとか……かな……)
雪城さんの実力であれば、そう遠くない未来「色付き」に選ばれるだろう。おそらく茜さんもそう思ってる。だからこそ少しでも経験を積ませたいと思ったのかもしれない。
「あとは
「まだあの一回しか成功してないんですけど……」
「あー……そっか。ま、雪城さんならすぐにものにできるよ」
俺達は双園基地を目指して歩く。
(……もし……明日の作戦で巻貝の
俺は今一度、背負っているものの大きさを確認した。
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