第29話 役目①

「…………銀崎君、そろそろ時間よ」


 緑野さんの声が聞こえる。


「はい」


 俺は目を開け、椅子から立ち上がる。


「っし……!!」


 俺は頬を叩く。時刻はまもなく深夜の1時だ。いよいよ作戦開始時間が迫っていた。昨日は双園基地で最低限の戦闘しか行っていないので、身体を十分に休めることができた。俺の準備は万全と言ってもいい。


「今、どのくらい集まっていますか?」


「ざっと150くらい……ね。若干南側に寄ってるわ」


「わかりました。その中にステージが高いものはいますか?」


「いないわ。ステージ1が大半よ。ステージ2は少しいるけど、ステージ3はいないわ」


 ステージ3までたどり着いた亡霊ゴーストはステージ4から心力マナのおこぼれをもらうような真似は基本的にしない。


「なら……60ぐらい引き寄せらればいいか……」


「70は引き寄せろ」


 突然須波さんが通信に割り込んでくる。相変わらず厳しい。


「それは……無茶です。こっちは2人しかいないですし」


「別にすべて倒せと言っているわけじゃない。引き寄せさせすればいい」


「…………」


「……ま、やれるだけやります」


「時間だ。始めろ」


「……了解」


 俺は全身から青い心力マナを大量に放出する。これは亡霊ゴーストを誘うといっても明らかに出し過ぎだった。しかし、広範囲に心力マナを広げるとなればこれくらいでいいのだ。


(さぁ……来いっ!!)


 俺の心力マナ亡霊ゴーストを特別引き付ける性質がある。元から青い心力マナ亡霊ゴーストを引き寄せやすい性質があるのだが、俺のは各段にその性質があるらしい。


「巻貝の亡霊ゴーストに群がっている亡霊ゴーストがどんどんこちらに向かってきます。その数20……30……もっと増えます!!」


 大群となった亡霊ゴーストがこちらに向かって近づいてくるのが見えた。


「共喰いを始めていませんか?」


「大丈夫。一直線にこちらに向かっているわ」


 これで心配事は無くなった。あとは引き寄せるだけだ。


(もっとだ……もっと引き寄せないと……)


 ここで動いたら近づいてきた亡霊ゴーストが離れてしまうかもしれない。限界まで近づいてきてから離れる方がいい。


「50…………60……を超えました。もう大丈夫。銀崎君その場から逃げてっ!!」


「……まだです。もう少し粘らないと……。ここでどれだけ引き寄せられるかが作戦の成功率を左右します」


「銀崎君っ……。どうしてあなたはいつもっ……!!」


 亡霊ゴーストとの距離は10mに迫った。


「…………あと……もう少しっ……!!」


 俺は足に心力マナを集める。


「いまだっ……!!」


 俺は動き始める。しかし、それほどの速度を出すわけにはいかない。追いつけそうな距離を保つ必要がある。


(よしっ……!!)


 亡霊ゴーストの大群ははいい感じで俺に引き寄せられている。

 

(あとは……例のポイントまで……)


 須波さんは引き寄せるだけでいいと言ったが、それでは亡霊ゴーストの数は減らない。巻貝の亡霊ゴーストを倒したとしても、周りにいる亡霊ゴーストが消えるわけではない。


「銀崎君っ、左っ!!」


 気が付けば足の速い亡霊ゴーストが左に迫っていた。


「っ……!!」


 俺は左腕に防御をかけ、そのまま亡霊ゴーストにぶつける。


「ギャガっ……!!」


 亡霊ゴーストは吹っ飛んでいく。


「もっと速度を上げて」


「…………」


 後ろを見ると亡霊ゴーストの大群との距離はさらに迫っていた。俺の放出した心力マナを吸収して力をつけているのだろう。


「早くっ……!!」


「ダメです。ここでこいつらを自由にさせたくないです。それにもうすぐ例のポイントです」


 俺は全体防御をする。


(とんでもない追いかけっこだ……)


 緑野さんを心配させるのは申し訳なかったが、これは俺の役目だ。絶対にやり遂げなければならない。


(みんな命を張ってんだ……。俺だけ安全になんて、そんなこと許されるわけがないっ……!!)


 ステージ4の亡霊ゴーストを倒すためには皆が課された役目を果たす必要がある。失敗は許されない。ステージ4の亡霊ゴーストはそれだけの相手なのだ。


「!!」


 俺の走っている道路は大きな交差点に差し掛かる。ここまでまっすぐ走ってきた俺はここで右折する。


「山村さんっ!!」


「おうっ!!よくここまで頑張ったなっ!!ここからは俺に任せろっ!!!!」


 1人であれば引き寄せた亡霊ゴーストをどうするかという問題はすぐには解決しなかった。できるとすれば不意を突いて攻撃するぐらいだろう。


「お願いしますっ!!」


 須波さんの作戦ではステージ4の亡霊ゴーストを倒した後に「色付き」が北と南に別れて、巻貝の亡霊ゴーストに群がっていた亡霊ゴーストを始末するということだが、ステージ4の亡霊ゴーストの戦闘において確実はない。こちらに来ることができない可能性も十分考えられる。「色付き」の援護に頼りすぎるというのはよくない。むしろこちらで早めに始末して援護に向かった方がいいだろう。山村さんとならそれができる。


形成クラフト!!状況を一変リバーサルさせる砲撃キャノンっ!!」


 俺の先には山村さんが巨大な大砲を出現させていた。山村さんの心器しんきの大砲は火力に特化している。連射はできず、動くことは難しい。しかし、それに見合うだけの火力はある。当たりさえすれば、ステージ3でも一撃で沈めることができる。


「今ですっ!!」


 大砲に心力マナが装填され、空気が揺れる。充填が完了し、いつでも打てる状態であることを確認して俺は叫ぶ。


「ああっ!!」


 俺は大きくジャンプをして建物に乗り移る。


「はぁぁぁぁっ!!!!!!」


 轟音と共に極太の砲撃が放たれる。もはやビームだった。砲撃はコンクリートの地面を抉りながら、亡霊ゴーストの大群を焼き尽くす。


(相変わらずすごい威力だな……)


 この付近には交通規制をかけており、車は一台もいない。というか車や普通の人、建物に被害がでてしまう。こういう理由もあって山村さんはこの心器しんきをめったに使わない。


「緑野さん、亡霊ゴーストの殲滅率はどれくらいですか?」


「…………」


「緑野さん?」


「…………7割ほどは消滅確認できています」


「……ありがとうございます」


 緑野さんの声は冷たかった。


(……これ……めっちゃ怒ってるやつだ……)


 先程の命令無視を根に持っているのだろう。


(あとでしっかり謝らないとな……)


 今の俺にはやることがある。それは残りの亡霊ゴーストを倒すことだ。


形成クラフト!!スターティアー銀狼ウルフ!!」


 砲撃が終わったと同時に俺は心器しんきを形成し、走りだす。


「巻貝の亡霊ゴーストに向かおうとする亡霊ゴーストから優先的に倒していきます。誘導をお願いします」


「了解」


 多くの亡霊ゴーストを倒したがここで油断してはいけない。むしろここからが本番というまである。南側の亡霊ゴーストを引き寄せるチームも動き出しているはずだ。


「俺もサポートする。一気に叩くぞっ!!」


「はいっ!!」

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