第18話 イメージ
「ここに来るのも随分と久しぶりだなー」
私たちは双園基地のトレーニングルームに来ていた。昼間の間は
「さて……やろうか」
火村さんはニヤリと笑い、私を見る。
「……はいっ!!」
私は喫茶店で火村さんに私と実戦形式の訓練をして欲しいとお願いした。火村さんはあっさりと了承してくれた。緑野さんも一緒だった。
「
火村さんは刀の
「え……」
私は火村さんの
「どうしたの?」
「その……
「……その通りだよ。この
「……そうだったんですか……」
「雪城さんの
「はいっ……。
「へぇ……」
火村さんの出した声は驚きにも聞こえたし、関心しているようにも聞こえたし、どこか馬鹿にしているようにも聞こえた。
「……白いね。とても……」
火村さんは自分の
「……仁君が雪城さんに入れ込む理由が少しわかったよ。そりゃ……そうか……」
「え……」
「さ、始めようか。遠慮はいらない。というか殺す気で来なよ」
「!!」
火村さんからとてつもない
(……私は……怯えているの……?)
「……お願いしますっ!!」
私は手で太ももを叩き、硬直を解く。そして、火村さんに向かって走り出す。
「はぁっっ!!」
私たちの
「……思いきりが良いように見える攻撃だね」
「え……」
「さっき雪城さんは痛い思いをするのを恐れているかもしれないって言っていたけど、それは違うみたいだね」
「……どういうことですか?」
「ふーん……無自覚か……。自覚があるよりも厄介かもね。はっ!!」
「くっ……」
火村さんが刀を振り、私は弾かれる。
「……さっきの答えを教えてもらっていいですか?」
「どうしよっかな。自分で気づいて欲しいっていうのはあるけど、無自覚じゃ気づけないか……。そうだ。私に一撃を入れることができれば教えるにしよう。いいよね?」
「……はい」
答えは簡単には教えてもらえなかった。
(単純な攻撃はまず当たらない……。ならっ……)
私は
「確かに速度は上がったけど、攻撃の軌道がバレバレだよっ!!」
火村さんは刀を縦に振るう。
(来たっ……!!想像通りの攻撃……)
私は右肩付近から
「おっ……」
「そこっ……!!」
紙一重で火村さんは後ろに飛んで避ける。
(虚を突いても避けられる……。反射神経も半端じゃない)
「今のは驚いたよ。惜しかったね」
火村さんは涼しい顔をしていた。
「じゃあ、今度はこっちの番。いくよ」
私は鎌を構える。視線は火村さんを捉えていた。
「えっ……」
はずだった。私の視界から火村さんが消える。
「がっ……っ……」
左側から腹を剣で斬られていた。いや、峰打ちだった。私は3mほど飛ばされる。
(なんで目の前から……消えたの……?私は火村さんから目を離していなかったのに……)
私は何が起こったのか全く理解できなかった。
「
火村さんは私の心を読んだかのように話し出す。
「何を……したんですか?」
「それは自分で考えなきゃ。小学生でもないんだし、何事も聞けば答えが返ってくるわけじゃないよ」
「…………」
火村さんのいうことは正論だった。私は立ち上がる。
「……いきます」
火村さんの謎の移動方法を見せられてから30分は経っただろうか。私たちは休むことなく戦い続けた。私の鎌は火村さんにかすりもしなかった。
(……大量に
私は火村さんが急に移動してきた場所を見たが、何かマーキングされているわけでも、跡が残っているわけでもなかった。私は考えながら戦っていた。
「そう。考えるんだ。頭を使わないと。力技だけじゃ強くなれるにも上限がある」
「…………自分のイメージで相手のイメージを塗り潰せ……」
「仁君から聞いたんだ。それはね、師匠の口癖だったんだ。この言葉の意味が理解できる?」
「……最初この言葉を聞いた時、正直ピンと来ませんでした。でも、今なら少しだけ……その意味が理解できた気がします」
「じゃあ……答えを見せてもらおうかっ……!!」
火村さんは私に接近する。
(…………現実では不可能なことも……死神なら……可能にするっ!!)
私は自分の内側に
(火村さんの背後に……ワープする……!!)
私は目を閉じ、自分が火村さんの背後にワープすることだけを考える。それ以外の思考はすべて捨てる。
(今だっ!!)
全身に
「!!」
身体の中にあった
(できたっ……。これならっ……)
私は火村さんの首を狙う。
「っ……!!」
火村さんの目が私を捉える。初めて見る動揺した目だった。今から身体の向きを変えるのは不可能だ。
「しまっ……」
すると火村さんの周りを炎が囲む。
「……っっ……!!」
私は思いっきり炎に突っ込んでしまっていた。私の攻撃は阻まれてしまう。
(……まだっ……!!こんなことでっ……私はっ……!!)
身体は燃えるように熱くなり、脳が引けと指令を出していた。
(狂わなきゃ……。強くなれないっ……!!)
以前銀崎さんが言っていた狂えという言葉を思いだす。
(銀崎さんならっ…………引かないっ!!)
私は炎の壁を進む。そして、炎の壁を抜けた瞬間だった。
「っが……!!」
腹に鈍い痛みが走り、私はトレーニングルームの壁まで飛ばされる。背中を強く打ち痛みが走る。私は受け身もとれず、地面に倒れ込む。
「雪城さんっ!!」
緑野さんの焦った声がした。
「やばっ……」
火村さんも焦っていた。2人の近づいていくる足音が聞こえる。
(っ……痛い……。これが……戦うってことなんだ……)
私は今日初めて本当の意味で戦うということを知った。今までだいぶ甘やかされてきていたのだ。
(……私は……死神なんだ……っ!!立たない……とっ……)
私は腕を使い、身体を起こそうとする。
「この子……まだっ……」
「…………」
私はよろよろと立ち上がり、鎌を構えて火村さんを見る。緑野さんは絶句と言った表情で、火村さんは苦い顔をしていた。
「……私の負けだ」
「え……」
火村さんの突然の敗北宣言に脳が付いてきていない。
「……君の勝ちだ」
「…………そう……ですか……。私……」
私と火村さんは別に勝負をしていたわけではない。何が勝利で何が敗北かはわからなかったが、私は勝ったのだ。
(……やりました……よ……。銀崎……さん……)
私は銀崎さんの顔を思い浮かべながら意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます