第6話 見学

「お疲れ」


 俺が亡霊ゴーストを倒して基地に帰ると山村さんが迎えてくれた。


「お疲れ様です。あれ?今日、山村さんって非番でしたよね?」


「ああ。ちょっと別件でな。敵はどうだった?」


「無事に倒せました」


「さすがだな」


「あの竜以降そんなに強い亡霊ゴーストは現れていませんしね……」


「あんなのがホイホイ出て来られるても困る」


「そりゃそうですね。楽に倒せるに越したことはないですからね。今日は2体亡霊ゴースト反応が出ていたので清水さんがもう一体の討伐に向かってます」


「今日は多いな。で、心白こはくちゃんの調子はどうだ?」


「調子って……指導のことですよね?」


「ああ。指導を始めてから3週間ぐらい経っただろ。生田所長から才能あるって聞いてたら、仕上がりはどうかなって思って」


「たまに見に来ていますよね?」


「ああ。ちょくちょくは見てるが、教えている側から見てどうかなって思って」


 山村さんは時間があれば、俺と雪城さんの修行に顔を出しアドバイスをしてくれていた。


「そういうことですか……。前にも少し話しましたが、心力マナのコントロールにだいぶ苦戦しています」


「そっか。で、どうだ?仁が見て彼女は才能はあると思うか?」


心力マナの量などの観点から見れば才能はあります。あとは実戦でどこまで動けるかですね」


「確かにな。能力が優れてても、活かすことができなきゃダメだもんな。ありがとう。俺、心白こはくちゃん見てくるよ」


「俺も行きますよ」


「いいよ。休んでおけよ。帰ってきたばかりだろ」


「大丈夫です。どうせ行くつもりだったので」


 俺と山村さんはトレーニングルームに向かう。


「んんっ……。キャっ……あっ…ああーーっ!!」


 雪城さんは思いっきり壁にぶつかっていた。


「…………」


「………………まだまだ苦労してるみたいだな……」


 山村さんはなんとか言葉を絞り出したといった感じだった。


「ですね……」


「いった……。あっ、銀崎さん、山本さんお疲れ様です」


「あっ、ああ。お疲れ様」


「お疲れ様」


心白こはくちゃん明るくなったよな。もっと静かな印象があったんだけど」


「ですね。最初の方は緊張してたんですかね?とにかく最近はあんな調子です」


「まあ、明るい方がいいよな……」


「それはそうですね。雪城さん調子はどう?」


「まだ……移動が上手くできません」


「やっぱり出力のコントロールに手間取っている感じ?」


「はい……。少しずつは良くなっていると思うんですが……」


 雪城さんは最初の1週間で基本的な防御を習得した。その後心力マナを使った移動を習得しようとしているがなかなか上手くいっていない。


「そうだね。さっきも最初の方はできていたもんね。じゃあ、ちょっとやってもらっていい?」


「はい」


 雪城さんの足元が白色に光る。白色の光が出たのを確認すると走り出す。壁の直前で止まり、180度身体を回転させ、また走り出す。


「ああっ……」


 またも彼女は壁に激突してしまう。


「やっぱり心力マナを出し過ぎていることが原因だな」


「はい。雪城さんは心力マナの量はめちゃくちゃ多いんですが、少量だけ出すのが苦手な感じなんです」


「足元に心力マナが溢れて見えていたもんな。水道の蛇口をひねると水が一気に出ちゃう感じか?」


「そんな感じでしょうね」


心力マナが多すぎるっていうのも考えものだな」


「ええ。それなんですが、良い案を思いついたんです。雪城さん、ちょっとこっちに来てもらっていい?」


「わかりました」


「今、移動する時って教えた通りしているよね?」


「はい。足が地面から離れる瞬間に足裏から心力マナを放出し、加速する……ですよね」


「うん」


 心力マナを使った移動方法は実に単純で、移動する瞬間に足裏から心力マナを放出し加速するというだけだった。しかし、雪城さんはその放出する量が多いため上手く移動ができないないというのが現状だった。


「でも、今は心力マナを放出しすぎているせいで、加速しすぎているって感じだね。だから加速する反対側に心力マナを放出しながら加速するのはどうかな?」


「なるほど。いいかもしれないな」


「…………えっと……。一度やってみます」


 雪城さんは再び加速の態勢に入る。


「あっ……これ、いいです。今までで一番上手くいってます」


 雪城さんの腕からは心力マナが移動する方向と逆方向に放出されていた。正直見た目は悪いし、無駄に心力マナを使っているので良いとは言えない。しかし、移動のコツを掴むにはいいだろうと俺は考えた。


「!!」


「おおー、上手くいったな」


「……はい。良かったです。想像以上です」


「やりましたー。あっ……きゃあぁぁぁ……!!」


「「あっ……」」


 油断したのだろう。反対側に放出する心力マナが途切れてしまった。雪城さんはそのまま壁に衝突した。


「いっ……たぁ~~……」


「……まだ練習が必要だな……」


「……のようですね……」


「でも、これって上手く使えば大きな武器になるよな。そこまで見越しているのか?」


心力マナのコントロールが上手くいけばですが……」


 心力マナを様々な方向に放出し、空中を自由に移動する死神もいる。もちろん心力マナの精密なコントロールが必須だが、選択肢を増やしておくに越したことはないはずだ。


「よし。もう一回やってみようか」


「はいっ!」


 そのまま雪城さんの修行を見ていた時だった。


「銀崎君。今大丈夫かしら?」


 トレーニングルームに緑野さんの声が響いた。


「はい。今、タブレットを繋ぎます」


「お願い」


 タブレット端末に緑野さんの顔が映る。


「どうしたんですか?」


「凛の応援お願いしてもいい?亡霊ゴーストが素早くて、1人じゃなかなか追い込みが難しいみたいなの」


「わかりました。すぐに出ます。清水さんの位置データをタブレットに転送してもらっていいですか?」


「すぐに転送するわね。ごめんね。帰ってきたばかりなのに」


「いえ、気にしないでください」


「ちょい。けいちゃんいい?」


 にゅっと山村さんが割り込んでくる。


「山村さん?どうかされましたか?」


「凛ちゃんが遭遇した亡霊ゴーストってそんなに強くはない感じ?」


「はい。動きは速いですが、現状危険度はそれほど高くないです」


「何か考えているんですか?」


「ああ。心白こはくちゃんも現場に連れて行こうと思ってさ」


「……うーーん」


 緑野さんが困った顔をしている。


「俺は反対です」


「防御はできるんだろ?」


「……ええ。ですが……」


「俺が心白こはくちゃんの近くにいるから。先のことを見据えるなら亡霊ゴーストとの戦いがどういうものかということを見せおいた方がいい。幸い敵はそれほど強くないようだし」


「…………」


 山村さんの言っていることは間違いなく正しかった。実際に亡霊ゴーストと敵対しないと強さがわからないことが基本的に多いため、初めての戦闘で強敵と出会って新人が命を落とすというケースもある。


「……わかりました。生田所長の確認だけとってもいいですか?」


「もちろんだ」



 ーーーーーーーーーー


「おーい。こっちこっち」


 俺は清水さんと合流した。


「お待たせいたしました」


「ゴメンね。手伝ってもらっちゃって。ん?」


 清水さんは俺と後ろにいる山村さんと雪城さんにすぐに気づく。


「見学させてもらうよ。所長の了承はもらってる」


「よろしくお願いします」


「……えっと、どういうこと?」


「山村さんが雪城さんの今後のために見学させるということになって……」


「……まぁ、いいけど」


「悪いな。いつもどおりやってくれ。俺たちは見てるだけだから」


「……敵は何タイプですか?」


「獣型。あの見た目は狐かな……たぶん。追い込んだら逃げられちゃった。何度か追いかけたんだけど、結構逃げるタイプみたいでね。たぶん黒い霧をまとい直していると思う」


「了解です。現在の位置は送ってもらった場所から動いていない感じですね」


「うん。あそこの角を曲がった公園にいるはず」


 清水さんは公園の方を指さした。


「作戦はどうします?」


「銀崎君には追い込みをお願いしたい」


「わかりました。反対側から回り込む感じでいいですか?」


「うん。それでお願い」


「公園の反対側の入り口に到着したら連絡します」


「了解」


 俺は遠回りして公園に向かう。


(確かこの公園けっこう広かったよな……。)


 5分もしないうちに俺は公園の入り口に到着した。


「清水さん、到着しました」


「了解。こちらも入り口に到着した。亡霊ゴーストの姿は確認できる?」


「いえ、見えないです」


「私の方からも見えないから中央の方にいるのかな」


「確か真ん中に広い場所がありましたよね。戦うならそこがいいと思います」


「そうしようか。銀崎君が反転状態になって広い場所まで追い込んでもらっていい?」


「了解です。反転リバース


 俺は反転状態になり、ゆっくりと歩みを進め始めた。

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