4.居ない

館に住み着きおよそ2年目

やること全て完璧になった

主様からも素敵なメイドと呼ばれた

自分が猫であることを忘れかけるくらいには

すごく、楽しくて、幸せだった


なのに


『主様。起きておられますか。ご飯ですよ』

……?音がしない。

『主様。起きてますか?大丈夫ですか?』

……。返事ひとつ聞こえない。


ガチャ


ドアを開く。主様の部屋に入ったのなんて、ここに来た時以来ではないか。いつもは頑なに入れようとしないから。


『主様〜…って……』


居ない。デスクにも、ベッドにも。

キッチンやリビングに降りてもいない。

私ずっとキッチンいたし


靴…。


そうだ、外に出たか確認しなきゃ

舞音は部屋を出て玄関に向かう

最初は長いメイド服につまづいて転んでいたが、今じゃもう階段も走れる。

玄関に着いてシューズクローゼットを開く。


無い。


主様の革靴がない。

いつも履いてる靴がない

こんな朝から?どこへ?

詮索するのもよろしくないかと思い

帰りを待つことにした。

せっかく作った朝ごはんは、勿体ないので別の蓋付きの箱に詰めることにした。昼までに帰ってくればそのまま温めてお出ししよう。

帰ってこなければ、僕のご飯にしよう。

そんなことを考えながら、朝ごはんを済ませた。


食器を片し、まぁまぁ広い屋敷の掃除。お庭も箒でササッと掃いて、一息つく頃にはもうお昼。主様は帰ってこない。

なんだかそわそわして落ち着かない。

近くにあったバナナを頬張り、1つの本を手に取る。グリム童話の赤ずきんだ。

何度も読み返して内容はほとんど覚えてしまった。

台所に置かれたご飯に、手をつける気は起きなかった。


本を読み終えたころ、外はすっかり橙色だった。主様はまだ、帰ってこない。


そういえば、2年前。追ってきた奴らがいたな。その後主様が護身用にナイフをくれたっけ。キラキラとアンティークな装飾が施された、ナイフ。3本。あと、懐中時計。

テーブルの上に並べて眺める。主様、帰ってくるのでしょうか。


ナイフを持ち上げ外の太陽に当てる。

刃がきらりと光沢を見せる。

太ももにつけたナイフホルダーに3本しまい、懐中時計もポケットにしまう。浴室の掃除に向かう事にした。


カーン カーン


外のベルがなった。誰か来たみたいだ

主様はそのまま入ってくるだろうから、よその人…。警戒心をもち、玄関に向かう。

近くの窓から外を覗くが、人は見えない

恐る恐る扉を開けて先の人を視界に止める


『いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか。』


ッ!?

そんなっ…なんで……


玄関先に佇む男はそっとハンドガンを構える

その姿は、どこか見た事があった。

あの時…猫に戻ってしまった舞音を助けた時のあの構え方。そしてそのハンドガンの装飾は……


『主様……っ』

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化け猫メイドは今日も待つ @setuya_mao

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