概要


 田舎の総合病院の龍明総合病院に消化器外科医として勤務する藤野圭太は、器用に仕事をこなすも医師という職業に情熱を持てなかった。そんな時一人の女性外科医が新しく帝東大学附属病院から派遣されてきた。彼女の名前は西條真奈美。彼女は自分の信念に従って熱心に働いた。藤野はそんな彼女と一緒に働くにつれて、彼女に違和感を覚えた。そしてある患者の死をきっかけに、彼女は「余命が見える。」と暴露した。最初は懐疑的だった藤野も、西條が予知しているとしか思えない出来事が続き次第と信じていった。藤野と西條はその力を使い、医学的な治療で患者を助けるだけでなく、患者の“こころ”も救った。ある時、藤野は西條に自分が外科医になった経緯を話した。高校生のころ、消化器外科医である父が、人を轢き殺す交通事故を起こした。それは嵐の中緊急手術でよばれ急いで病院に向かっている最中であった。その事故が原因で世間から藤野の父はバッシングを受け自殺する。また藤野の母も藤野を守るため懸命に戦うが世間からの嫌がらせに耐えられず自ら命を絶った。藤野自身は外科医とて懸命に働く父を尊敬していたが、世間からの監視の目を逃れるためには苗字を変え、両親のことを話さないようにしていた。自慢の両親を裏切るような行為を藤野自身が許せなかった。だから、藤野は家庭を壊した原因である外科医になり、父への贖罪の念で医療を続けていた。西條はその話を聞き、藤野の余命がわずかであることを伝えた。藤野はゴールのない贖罪という道を走っていた。西條はそんな藤野に最期の日時を伝えた。そんな中、消化器外科の副部長の佐々木が倒れた。膵癌であることが判明するも、手術での治療は困難と考えられた。藤野は友人との会話をきっかけに自分の余命を犠牲にして佐々木の治療にあたることを決心した。なんとか佐々木の治療法である新薬ダビガドランの術中腫瘍注入療法も、龍明総合病院を嫌う帝東大学附属病院でしか行えないことがわかった。藤野と西條は杉田教授を説得するも無駄だった。結局手術方法が見つからないまま手術当日を迎えた。悲しいことに佐々木の手術日は藤野の命日であった。藤野は手術には向かわず、最期をお気に入りの屋上で迎えることとした。しかし余命の時間が来ても藤野は死ななかった。不思議に思い、藤野は佐々木の手術にむかった。そこで藤野は龍明総合病院消火器外科部長の奥田からすべての真実を聞かされた。奥田と杉田は亡き藤野の父、高橋先生の弟子であった。二人は高橋が大学病院の医局からも見離され亡くなったことをひどく悔やんでいた。そして二人は高橋が望んでいた“地域医療再生”のため杉田は教授として、奥田は地方病院の外科部長として懸命に働いていた。そんな中高橋の子である藤野が外科医になり、二人は嬉しく思っていた。しかし、藤野は贖罪のためだけに外科医として生きており、仕事に誇りをもつことはなかった。奥田と杉田はなんとか藤野に外科医である誇りを持ってほしいと思った。そこで、二人は藤野に余命宣告をすることで、本当にやりたいことが何なのかをわかってもらう作戦を企てた。結果、藤野は命が消える日まで懸命に佐々木の治療にあたった。藤野自身も自分が本当はもう贖罪ではなく、いち外科医として自らの意思で治療にあたっていることに気がついた。余命宣告は残酷なものだが、時として自分には何が本当に大切なものかを教えてくれる。

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賽の河原 犬飼 圭 @Inukaikei1990

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