第3章 感動のリアル三国志ワールド

 11月も下旬の許昌の朝は寒かった。

 まさに骨身に染みる寒さだったことを覚えている。

 

 太郎先生の知り合いの電気自動車に乗って許昌郊外へ。

 しばらく東へ走ると、いよいよ舗装もされていない、とんでもないでこぼこ道になってきた。昨日までの雨で水たまりがあちこちに出来ていて、車は大きく蛇行しながら走る。

 車が溝を踏んで飛ぶたびに、天井に頭をぶつけることになった。景色も次第にド田舎の様相になってくる。埃っぽい店が立ち並ぶ通りを抜け、さらに細い農道に入っていく。いよいよ人家もなくなった辺りで車を降りてここより歩くという。


 目の前には朝もやに煙る一面の緑の大地、まばらに生える並木はまるで絵画のようだ。地平線が遥か彼方に霞んでいる。見渡す限り緑の絨毯を敷きつめたような現実離れした光景、ひんやりした空気、土の匂い。中国の大地に深い憧憬を覚えた。

 私はこの霧に煙る緑の大地をひたすら美しいと感じた。


 雨にぬかるんだ道を進み、見えてきたのは高さ二メートルほどの土の壁、張遼城遺址だ。魏の武将、張遼が駐屯した場所と伝えられている。

 自分が今立っているこの大地をゲームでは必ずプレイアブルキャラになる超有名武将張遼が1800年前に踏んでたかもしれないのだ。鳥肌が立ち、感動に全身が打ち震えた。

 何も知らない人にはただの土盛りだが、三国志ファンにとってはまさに聖地。看板など無い、しかしそこには確かに浪漫があった。


 許昌は曹操の本拠地であり、魏の史跡が多数点在する。武将の墓や博物館、公園、楼閣など三国志に関連する場所をこれでもかと案内してもらい、リアル三国志の世界に触れる感動と楽しさを実感した。

 書籍やゲームで知る武将の墓が目の前に建っている驚きといったら、ある意味街中で有名人に出会って興奮する感覚だ(本当にそうなのだ)。


「来年は曹操の故郷に行きますか」

 太郎先生の悪魔の囁きは私の三国志遺跡巡りへの情熱を呼び起こすことになる。


 中国は広い。魏、呉、蜀のあった地に三国志関連の史跡が点在している。

 遺跡巡りと中国旅行の楽しさにドハマりした私は、それから毎年三から五日程度の休みを取っては三国志遺跡を巡る旅を始めた。


 コロナ禍までの六年間で三国君主の墓、安陽の曹操墓、南京の孫権墓(未発掘)、成都の劉備墓(恵陵)や官渡、合肥、長坂坡、赤壁、夷陵、五丈原などメジャーな合戦の地を巡った。

 そこが今やただの畑だろうが、廃墟だろうが、土の山だろうが、感動があった。土地にまつわる物語に惹かれてやまない、まさに心躍る聖地巡りの旅だった。



 


 

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