第5章 おおらかな人たち
中国人のおおらかさには定評がある。これぞ大陸気質なのか日本人のようにせかせかしていないし、やけに堂々としている。旅先で見た中国人の姿に衝撃を受けた話。
道を尋ねたり、店でものを買うとき、中国語ができない私の言葉は意味不明だったことだろう、とはいえ「ああん!?」と顔をしかめて大声で聞き返されると「はい、すみませんでしたっ!」とすごすご引き下がってしまう。特に中年女性が横柄で、何か頼むときはおっさんを探したくらいだ。
しかし、めんどくさいだけで別に私を威嚇しているわけではないとわかってからは「ああん!?」にも食い下がることにした。
めちゃくちゃ待たせる。
鉄道駅はいつも大勢の人でごった返している。切符手配はネットで可能だが、窓口で切符を受け取らなければならない。この窓口が長蛇の列を成す。人間の数も多いが、スタッフがめんどくさそうにのんびり対応するので時間がかかる。中国の鉄道は座席が予約制なので乗り遅れると面倒なことになるため、いつも1時間以上余裕を持って窓口に並ぶようにしていた。
田舎のホテルに宿泊したときだ。チェックインのシステムの使い方がわからないおばちゃんが目の前でパソコンに文句をいいながら悪戦苦闘。これだけで10分以上待たされたついでに、後からきたおっさんのチェックインはスムーズに通ったらしく、順番を後回しにされてしまう。
さらに外国人はパスポートのコピーを取られるのだが、パスポートをもって二階へ上がったまま戻って来ないこと15分。
一体何をやっているんだ!?と心配になりかけたころに鼻歌交じりで悠々と階段を降りてきた。チェックインに30分以上、クッソ寒くて暗いロビーで延々待たされたことがある。
こんなときにも全く悪びれない。鋼のメンタルだ。
タクシーに乗るときもぼったくり注意だ。メーターをリセットせずにそのまま走り出すドライバーがいる。高額だと気が付くが、タクシー料金は割と安いので気が付きにくい。
駅からホテルへ依頼したときに、メーターを倒す素振りがない。到着したら明らかに通常の二倍近くの料金を請求してきた。中国語がお粗末な私だったが、「うわおおお、高い」と叫んだらチッ、しゃーねーなという感じで妥当な料金になった。こういうときは負けてはならない。
遺跡巡りのとき、交通が難しい場合は現地ガイド兼ドライバーを依頼していた。ガイドにも驚かされることがあった。
関羽が最後に逃げ延びた地、麦城へ行ったとき。ガイドが「行ったことがあります」と意気揚々と案内してくれたのだが、田舎道を行けども見つからず、途中の農民に道を聞けど「知らん」と言われる。
そこで「鉄道の時間もあるし帰りますか」・・・いや、アンタ行ったことあるって言うたやん!?
せっかくここまで来て引き返すなんてできない、と私は食い下がった。そして怪しげな土盛りを発見、無事に麦城遺址に到達できた。やはり負けてはいけないのだ。
曹植墓へ行った時、曹植の像を写真に収めていると、ガイドがスマートフォンを手渡してきた。像の前に立ち、ポーズを取っている。いや、あんたはガイドでワイが客なんだが!?と突っ込みたくなったが、なんか笑顔に負けて写真を撮ってあげた。
中国人はおおらか、悪く言えば大雑把だ。日本人のようにぺこぺこしないし、態度がでかい。最初は戸惑ったが、これが彼らの自然な姿なのだ。この雑な感じ、実のところ嫌いじゃ無いのだ。
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