第6章 温かい人たち
中国人は情に厚い。ホッと心温まる親切に出会うことがある。
魏の軍師、郭嘉の故郷へ行ったときのこと。ド田舎の道路脇に郭嘉を祀る手造りの小さな廟がある。残念なことに施錠されている。せっかくここまで来て、と未練がましくうろうろしていたところ、おっさんが近付いてきた。
なんとこの廟の管理人だという。家は廟のすぐ前にあった。鍵を開けてくれて無事にお詣りすることができた。
それだけでもラッキーだが、ちょっと来いと家に誘われ、昔の村の様子を書いた自作の地図を見せてくれた。大判の紙に筆で書いた立派なものだ。かつては村の入り口に立派な門があったそうだ。その門の石碑が残っていると庭に案内してくれた。
郭嘉が好きでわざわざここへ来る中国人は少ない、ということで喜ばれて良い思い出になった。
葫芦峪にある武侯祠(諸葛亮を祀る)に行ったとき。
埃っぽいド田舎の武侯祠で、参拝客は他に誰もいない。諸葛亮にお詣りをしていたら、管理人のおっさんが出てきて話しかけてきた。拙い中国語で返事をしたが、わからん!と言われて笑われた。そして、これは旅のお守りだと赤色の毛糸を手首に巻いてくれた。
ガイドによれば「あんたはまだ生まれていない頃、日本とは戦争もあったけど、仲良くしないとね」と言っていたそうだ。ここが旅の最後の訪問場所だったので感慨深く、思わず目に涙が滲んでしまった。
孫権故里を訪問したとき。
ガイドのおっさんと金額交渉をした地元のおっさんの車に乗って田んぼの中にあるはずの石碑を探してド田舎へやってきた。
地元おっさんも石碑の場所を知らないらしく、畑仕事をしていたおっさんに場所を尋ねている。すると、畑のおっさんが車に一緒に乗ってきた。道案内をしてもらうという。
初対面のおっさん3人と車に乗り合わせ、全員が見ず知らずだが、謎の連携により無事に石碑を見つけることができた。こういう中国人の大らかさってすごいなと感心する。
仙都風景区はドラマ「軍師連携」のロケ地になった川と橋、巨石の印象的な風景のある自然公園だ。
景区の民宿に泊まったときのこと。到着日の夜、奧さんが手作り餃子を作ってくれた。餃子作りに参加させてもらったが、下手すぎてもう良いよと言われてしまった。出来上がった餃子は本当に美味しくて、皿一杯に盛られたのをペロリとたいらげてしまった。
翌日からの観光にはご主人が行きたい場所に車を出してくれた。メインの観光地の他にちょっとマイナーな離れた場所まで、案内してくれた。写真を依頼したら画角を丁寧に確認して良い一枚を撮影してくれた。ご厚意でここまでしてくれることに驚いた。
2日目、以前許昌で出会った学生さんが近くで仕事をしているというので、一緒に観光することにしていた。数回しか会ったことがないのに彼女はとても親切で、私によくしてくれた。
帰りに鉄道駅の近くの古民居に行くことにしていたが、なんと民宿のご主人がそこまで送ってくれるという。ついでに一緒に観光して帰った。
この旅は中国人の優しさと温かさに、忘れられない思い出になった。余談だが、この河陽古民居で撮影した写真が中国情報雑誌のコンテストで賞をいただいた。
中国人の親切さには器の大きさを感じる。日本では踏み込んでいいのだろうか、というところまでおせっかいを焼いてくれる。私もいつか誰かにその親切を返したい、と思っている。
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