至灰期~史上最悪の大災害の調査~

一華凛≒フェヌグリーク

華仲ロマンの代理レポート

使者として至灰期に赴いたファロー氏への哀悼を込めて。



【至灰期~史上最悪の大災害の発生~】

 研究を進めるにあたって、多くの避難者からも多大なるご協力を賜った。「後世のためならば」と取材に応じてくださった勇気に、心からの敬意を表す。

 願わくばもう二度と、この悲劇が繰り返されないよう。


1はじめに

 『灰の怪』は至灰後期から解灰後期(もしくは至太陽後期)に渡り猛威を振るった災害である。副次効果で文化的資料の99%が喪失しており、これまでの調査では避難者らの記憶に頼るほかなかった。

 アレクシア・ドラコニウスは「少なくとも惑星全域における国家ならびに文明の崩壊が発生し『黄薔薇城周辺地域、直径60,000㎡』『星の浮島、詳細不明』以外の地表は灰の平野と変わる」と述べている。

 生物種(当時約3240万種)ならびに物族(当時約3460万種)の被害は90%以上と予測されており、身体が灰に変わって崩壊した説が主流である。管理精霊種以上も多大な被害を受けており、当時至灰世界に存在した近生精霊種の約73%が『灰の怪』に取り込まれて消失。『灰の怪』を至灰世界に留め浄化するために、残る27%も消失した[※記録者として渡った者、並びに至灰中期までに消失・転生した者は含まない]。

 未だ彼らの「魂」とも呼べる記録体は発見されておらず、『灰の怪』の崩壊と共に消滅した説が主流である。


 第一章では『灰の怪』を発明した当代人類の生態と変遷について触れる。第二章では『灰の怪』の拡大について、第三章では『灰の怪』を崩壊させた浮島生物について触れる。また第四章はファロー氏の手記を全文ママで掲載した。


『第△△△条 「至灰世界の現地調査に関する要綱」に従い、委託者によるレポート提出を許可する。

[大図書館現館長ヨモギの許可印]

[アレクシア・ドラコニウスの許可署名]

[ルウルゥの許可署名]

[とある精霊種の許可署名]』


 レポートは避難民からの伝聞と、使者ファローの残した手記による。いささか根拠に乏しいことは否定できないが、この研究を行うことの意義は重大であるとも考え、ここに記す。


2第一章 『当代人類フラクロウ』の生態と変遷

⑴ 第一節 フラクロウの生態

 フラクロウは至灰期の惑星に最も広く分布した翼人である。

 当代人類に見られる知能に加え、長期間の飛行能力、狩りに使用する頑強な脚部など鳥類の特徴を多く持つ。

 一方で消化器官に特異な発達が見られ、体長の5倍ある生物であっても捕食可能であるほか、ミドネスカ・ディヴァーナは「捕食した相手の特性を、自身の遺伝情報に組み込む(中略)5種類の強力な毒を混合したものであっても経口摂取に限り耐性を獲得し、自分のものとして使いこなす」と述べている。

 その特性故か、彼らは食事の際『生きたままの丸のみ』を好む。「切る」「焼く」「水通し」などの調理法は、宗教的な救いを得られなくなる忌むべき食事法と信じられており、例え棘を持つ生物であろうとも頑強な消化器官で飲み下し消化する。


⑵ 第二節 フラクロウの宗教

 ほかの有翼人にも見られるように、彼らは空を至高のものと考える。

 海や土など、より地表に近い場所は「汚れが落ちる場所」「寒く汚く喜びのない冥界」と忌み嫌い、地表の生物や海洋生物は「冥界の鬼」として見る向きが強い。

 空のより高い位置は「善行を積んだ魂のみが向かうことのできる至高の地」と考えられている。虹や雪など、惑星上で発生する自然現象はいずれも「善行を多くは積まなかった魂」と考える。一方で、目に見えないほど遠い星は彼らの英雄の生まれかわりであると信じられている。

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