ポニーテールラブ
イツミキトテカ
第1話
世の中には不思議な校則がある。これは、ニュースでも度々取り上げられているので、みなさんもよくご存知のことだろう。
例えば、こんな校則である。
「シャープペンシルの使用禁止」
これは私が小学生の時の校則だった。今となっては全くその意図が分からない。書ければ何でも良いではないか。
「下着の色は白にかぎる」
これはネットで見つけた校則だ。昔は白い下着の方が有色よりも安く、生徒間で貧富の差を感じさせないためにとか、いろいろ理由があったにはあったらしい。しかし、たとえ始めはそうだったとしても、今となっては時代錯誤も甚だしい。しかも、生徒たちが違反していないか、教師が下着の色を目視で確認する学校もあるというから驚きである。ここまでくると、もはや覗きと変わらない気がする。
「ポニーテール禁止」
これよ、これ。ポニーテールなんて髪ゴム一本で簡単にできるお手軽な髪型の代表格。おさげやショートカットは禁止されていないのに、ポニーテールだけ禁止する必要が果たしてあるのだろうか?
そんなの答えは一つしかない。ポニーテールを禁止する必要なんてあるに決まっている。
「ポニーテール禁止」にあたり、よく挙げられる理由は「うなじが見えて扇情的だから」というものだが、私はそうではないと確信している。
「うなじが見えて扇情的」なのなら、二つ結びやおさげやベリーショートだってうなじが見えるので扇情的であるはずだ。しかし、これらの髪型が禁止されているという話はそれほど聞かないように思われる。
つまり、扇情的なのはうなじではなく、ポニーテールの方なのだ。
私には分かる。心を鬼にしてこの校則を作らざるを得なかったポニーテールラバーの苦しみが。
私には聞こえる。ポニーテールラバーの欲望が、強靭な理性でギチギチと締めあげられている悲痛な音が。
◇◇
私は小さい頃からアニメが好きだった。当時、幼稚園生だった私がハマっていたキャラクター、それは、某美少女戦士に出てくるセーラージュピターこと木野まことである。
言葉遣いは乱暴で、高身長かつ怪力、さらに頭もそれほど良くはない。しかし、内面は誰よりも乙女で、家庭科が得意という意外な一面を持つまこちゃん。セーラームーンの登場人物の中で私は彼女が一番好きだった。
だから、友だちとセーラームーンごっこをするときは、私は絶対にジュピターの役を譲らなかった。それほど、私のまこちゃんへの愛は一途だった。まぁ、不思議とセーラームーンやセーラーマーキュリーが人気で、私はたいてい希望どおりセーラージュピターをやれた。取り合いにならなかったのが本当に不思議でならない。
私はゲームも好きだった。家にはスーパーファミコンがあり、時間を忘れてよく遊んだものだ。
ちなみに、私が初めて触れたRPGはFF5だった。マリオカートや餓狼伝説のようなアクションゲームとはまた違い、主人公を自分が動かして物語が進んでいく楽しさを初めて知ったゲームだった。
古代図書館がどうしてもクリアできず、父親に進めてもらったのはいい思い出だ。そして、FF5の特徴はなんと言ってもジョブシステム。竜騎士や踊り子のフォルムが好きでよく使っていた。思い出すと懐かしい。
ガラフが死んだのは幼い私には衝撃だった。ゲームだから、普通に生き返るものだとばかり思っていた。だって今まで何度も全滅してたじゃん。そのたびにコンティニューしてたじゃん。しかし、ガラフは生き返らなかった。そして、代わりにガラフの孫娘のクルルが仲間になった。溌剌として元気いっぱいの明るい女の子、クルル。結局、私はクルルが一番好きになった。
それからも、私はいろいろな好きに出会ってきた。どれも一目惚れと言っていいだろう。
餓狼伝説ならテリー
幽幽白書ならぼたん
ワンピースならビビ
コナンなら和葉
FF7ならレノ
今日からマ王ならアニシナ
十二国記なら延王
BLEACHなら恋次
VOCALOIDならがくぽ
魔法少女まどかなら杏子
響け!ユーフォニアムなら夏紀
ひぐらしのなく頃になら魅音
ウマ娘ならトーカイテイオー and so on…
正直、内容をあまり知らない作品もある。しかし、キャラクターだけは知っている。一度見たら覚えてしまうのだ。私の意志とは関係なしに。
私がこれらのキャラクターを好きなのは、彼ら彼女らが全員ポニーテールだからだと、みなさんはお思いかもしれない。しかし、正確にはそれは違う。好きだと思ったら、たまたまポニーテールだったと言ったほうが正しい。
だって、しょうがないではないか!
気づいたらいつだってポニーテールなのだ。神に誓って言うが、「ポニーテールだから好き!」なんて思ったことは生まれてこのかた一度もない。
実際、自分が好きなキャラクターにポニーテールが多いことに気がついたのは、かなり大きくなってからのことだった。自分の内なる
それ以来、なんなら私はポニーテールを避けるようにすらなっていた。「あっ、すき!」と思っても、そのキャラクターがポニーテールなら心に蓋をするようになった。
「これは、正しい好きではない。ポニーテールがそう錯覚させているだけなのだ」
そう、自分に言い聞かせた。言い聞かせて生きてきた。
幸いにして理性の強い私は、ポニーテールキャラへの一目惚れを抑えることができるようになっていた。目を逸らし、否定し続け、やっとここまでやってきた。理性が桁外れに強い自分に感謝である。
そうやって心穏やかな日々を謳歌していたそんなある日、私は新たに好きだと思えるキャラクターと出会った。瞳の色は金色で、髪は茶色で肩につくかつかないかくらい。青と白を基調にした衣装がよく似合う元気そうな女の子だ。
私はホッとした。自分がポニーテール以外のキャラクターにひと目で好感を持てたことに。心底ホッとした。今までの私とは違う。私は変わった!
私はそのキャラクターのことをもっと知りたいと思った。彼女の名前はアルル。ぷよぷよでお馴染みの主人公。言われてみれば以前から知っていたような気もする。
そして、私は気がついた。気がついてしまった。
あれ…アルル髪留めしてる…?
あれ…横から見たらこれ…アルルの髪型…ちょっとだけ…ポニーテールじゃない……?
あれ…あれれ……??
うわーーーーーっ!!
騙されたーーーーっ!!
ちょっとだけポニーテールじゃーん!!
ていうかもうほとんどポニーテールじゃーん!!
こんなの引っ掛け問題じゃーん!!
ちなみに私はフルメタルパニックのテッサもFF10のルールーも好きだよー!!
ちょっとポニーテールっぽいよー!!!
うわぁーーーーっ好きだーーーーーっ!!!
やっぱりどうしたってポニーテールしゅきぃーーーーーーーっ♡♡♡!!!
そういうわけで、私はもう駄目だ。ポニーテールの呪縛から逃れられない。そういう運命なのだ。
私は自分でいうのもなんだが理性が強い。とても強い。それでもこの有様だ。しかし、世の中には理性が弱いポニーテールラバーだっているだろう。私より理性が弱いうえに、私よりポニーテール愛が強い最凶のポニーテールラバーだっているだろう。
だから「ポニーテール禁止」の校則を鼻で笑ってはいけない。
人間なんだからそんな欲望我慢しろと思われるだろうが、残念ながらポニーテールへの愛は自分では決して止められない。我々だって愛そうと思って愛しているのではない。気づいたらポニーテールに吸い寄せられている。自然と目が追っている。これは無意識だ。抗えない本能だ。
「ポニーテール禁止」の校則は我々理性ある同類からの注意喚起だ。理性ではこの渇望を止められないからこうするしかない。その恐ろしさを知っているからこそ断腸の思いでこの愛すべき髪型を禁止している。
話は変わるが、私は昔から動物も好きだ。特に好きなのはうさぎで、長い耳に草食動物らしい慎重な性格、そしてつぶらな瞳と目に入るものすべてが愛おしい。
そんな可愛らしいうさぎによく似ている動物が馬だと思う。耳は長いし、慎重だし、人参食べるし、瞳も可愛い。一人暮らしでペットが飼えず、しかし動物と触れ合いたくて、一時期乗馬クラブにも通っていた。乗馬クラブの馬たちは一頭一頭個性があって面白かった。気の強い馬、臆病な馬、ぼーっとしている馬、ずる賢い馬、優しい馬…。本当にそれぞれがそれぞれの性格をしていて永遠に眺めていられる。あれは癒やしの時間だった。
馬と言えば競馬も好きだ。まさしく人馬一体となって行われる命懸けの競技。動物愛護の観点からすると、賛否両論あるだろうが、ゴール前でグッと首を伸ばす馬の姿を見ていると、彼らの中にも「走りたい」や「勝ちたい」といった気持ちをもつものがいるのじゃないかとつい思ってしまう。彼らの熱い闘いに何度涙したか分からない。
そして、私は最近気がついたことがある。私はゴール直前以外は、どうやら馬のケツばかり見ている。最後の直線にカメラが切り替わって、ようやく我に返り、自分の応援している馬の位置を探し出す。それまでは、無意識に、ずっと、ただひたすら、まんべんなく馬のケツを見ている。
正確には風にたなびく美しい尻尾を見ている。
このことに気がついたとき、我ながらゾッとした。だけど、これはどうしようもない。私ももう諦めた。だから、声を大にして言わせてもらう。
ポニーテール大しゅきぃーーーーーっ( ◜‿◝ )♡!
ポニーテールラブ イツミキトテカ @itsumiki
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