第四章:六話

 夏川くんを蛍琉の担当にした後、せめて少しでも彼の負担を減らすためにと私にできることは全てした。彼が疲れ切っていないかこまめに様子を見て、必要な資料やフォローは惜しみなく。


そして遂に、蛍琉は目を覚ました。


一度夢治療を終えた後、すぐには目覚めなかったから、失敗したのだと思っていた。それなのに翌日、まさか目が覚めるなんて。


私は驚いたけれど、事情を知った弟はもっと驚いていた。そして、全てを知った上で私に頼んだのだ。


『もう一度、夏川くんと一緒に記憶の中に入らせてほしい』と。


最初は正直、その言葉に困惑した。でも蛍琉の話を聞いて、蛍琉と、そして蛍琉のために尽力してくれた夏川くんを、共に救うために必要ならばと、私は協力することにした。


そう決めたのは私の姉としての私情だ。


室長に事情を説明し、二人が記憶の世界に入ったあとは、自分が二人のことを二十四時間体制で管理することを説明した。何かあったら全責任を取ると、頭を下げた。


それが姉としてではない、研究者としての私ができる、精一杯のことだから。


なんとか許可を貰い、そして蛍琉が目覚めたことを夏川くんには隠して、もう一度二人を記憶の世界へと送り出した。


もう、他に私ができることはないから。


今度はどうか二人で、


二人とも救われて帰って来ることができますように。


そう祈って、私は二人を見送った。

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