第22話 帝国の勇者

「お、セレンちゃん、いい飲みっぷりね」

「すごいですー〜セレンさん!」

「ひゃービールはやっぱり美味しいわ!」



杏と日菜の言葉に口を泡だらけにしながら答える

セレン


「お前、さっきまで高級レストランがいいとか文句言ってたくせに…」

「ライはんも大変やな〜わいもいつも女どもに振り回されておる」


白髪の男は腕を組みうんうんと頷く。

こいつの名前は和也、帝国に召喚された勇者の一人だと聞いた。

俺達は今酒場で本来敵であるはずの勇者と同席している。


何この状況……理解できない

とりあえず状況把握ぐらいしておくか…


「あーーどうして帝国の勇者がこの酒場へ?」


俺は疑問を持たれないように自然というつもりだったがやっぱり無理だった。

和也はステーキを頬張りながら答える。


「帝都へ帰る途中に寄っただけや、明日にはもう出るで」

「そうなのか、王子の結婚式とやらには参加しないのか?」

「ないない、国から出ろなんて命じられてないからな」


てっきり俺は明日行われる結婚式に参加するからこの町に寄ったのかと思っていた。

じゃあやはり王国のパーティーの帰りか……

俺は勇者を観察しようと思ったが結局めんどくさくて外で寝てただけだもんな…


「それにしても魔王軍歯ごたえなかったわー、わいも席次クラスの魔族と戦ってみたいわ」

「今の私達じゃ勝てないわよ、それに晃君達王国の勇者も席次クラス相手にボコボコにされたっていう噂よ」

「そうですよ!それにまだ私達には七災害がいますよー、もっと経験を積んでから戦うべきですー!」


和也がもの足りなそうに答えたのを即座に否定した杏と日菜


七災害が残ってるか

まぁその七災害とやらお前達の目の前にいるんだが


「それにしてもわいは晃はんが心配や、あの日から毎日一心不乱に稽古をしているって聞いたわい」

「えぇ、1日であんなに顔つきが変わるの初めて見たわ、このまま行くと壊れるわよ彼」

「八戸さんも美咲さんも心配してたのですー」


あの王国の勇者のことか

俺はエキドナとの契約により直前まで観察していたがその戦いの中であいつだけギフトが扱えていなかった。

恐らくそれが原因なのだろう


「なぁライはん、あんたどうしてセレンちゃんと旅してるんや」


和也が俺に問う。


正直に答えると面倒だから流すか……


「成り行きだ、一人で旅をしていたらいつのまにかこうなっていた」

「そうよ、わたしはこの人をぉぉzzZZ」


こいつ酔い潰れて寝やがった……


「あ、あのセレンさん大丈夫でしょうか……」


日菜が寝ているセレンの肩を叩きながら言った。


「ほっとけ、こいつはそう言うやつだ」


俺が飲み物を片手に言う。

すると杏が窓を見て和也の方を叩く。


「私達もうそろそろ行かなくていいの?」

「ほんまや!鍛冶屋に預けてた武器を取りに行かなあかん!」


和也達は徐に立ち上がり銅貨が大量に入った服を机に置く。


「ご馳走さん、わいらはこれで行くわ、釣りはやる

またいつかなライはん」

「ちょっと置いてかないでよ!」


和也が店を出て行こうとする後について行く杏


「あ、あのではまた何処かで!」


日菜が軽くお辞儀をして3人は店を出て行った。

不思議な奴らだったな


「帝国勇者か、あいつらは一体どこまでやっていけるか」


俺は袋の中身を見て確認する。

そしてテーブルに置いてある料金表を見た。


足りない………


補足分は後でこいつに請求するとしよう


「さて俺達もそろそろって……」

「ふにぁあぁzzZZ」


セレンは明らかに爆睡しており、既に夢の中だった


「はぁーー担ぐしか無いのか……」



会計を済ませ店を出ると外は暗くすでに月が昇っていた。

俺はセレンを背中に担いで歩き始める。


「意外と軽いな…体型が子供だからか?」


そんな事を考えながら仕事帰りの大人達が行く飲食店街とは逆にある宿を目指す。

飛行魔法天に舞うカエルヌを使うと早いんだがな

まぁこんなに兵士がいる中で空飛んでたら流石に気づかれるだろう


「ふにゃふにゃわたしはわぁーーだいまほうつかいー」 


セレンは口元をもごもごしながら寝言を呟く。

一体なんの夢見てんだお前……

俺は疑問に思いながらも道を歩いて行った。

すれ違う人達の視線が痛いがそんな事は気にしない


「はぁーー、めんどくさい」


独り言を吐きながら前へ進んだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る