第21話 港町

「わぁー見えてきたわ!」


セレンが馬車から首を出すと目の前に広がっていたのは地平線まで広がる巨大な海だった。

塩の匂いが香ばしく町全体を包んでいる。


「お客さんもうすぐですぜい!」


御者が手綱を引っ張りながら言う。


馬車で来れるルートはここまで

魔王国との戦争の影響で獣国までの道のりは貴族以外の馬車が禁止されているからだ。


馬車が町の入り口で止まり御者が顔をこちらに向けた。


「ご利用ありがとうござましたぜい、料金は前払いでいただいてますから」

「助かった」


俺は一言お礼を言うと馬車を降りる。

セレンも俺と同じように降りると後ろから少女が顔を出した。


「バイバイ!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

「またいつかね!みーちゃんもお母様も元気で」

「こちらこそ、元気でね2人とも」


少女の母親とセレンが別れの言葉を交わした。


俺はそれを傍らから眺めていると御者に手招きされる。


「お客さん!お客さん!一つ言い忘れてました、この街で明日の夜、公爵令嬢様とバリアス王子の結婚式がこの町の屋敷であるんです」

「警備がいつも以上に厳重だから気をつけろということか?」

「えぇそうですぜい、最近の帝国兵は横暴が激しくて余計な警戒をされないよう充分注意して欲しいですぜい、全く…帝国の兵の身分の高さにはウンザリですよ…」


確かに聞いたことあるな…

帝国での兵士職はエリートクラス

その身分を使っての横暴な行為が多発していると


「わかった感謝する」

「いえいえ、またいつか」


そう言って馬車は町の奥へと進んでいった。

俺は辺りを見回す。


「王都ほどでは無いが人が多いな」

「まぁ帝都に次ぐ帝国第二の町だから?」

「それもあるが……」


やはり至る所に配置されている兵士が気になる

そりゃ自国の王子が結婚するとなると警備も厳重になるのもわかるがここまでするならもう帝都で式を挙げれば良くないか?


「まぁ行くか、とりあえず盗賊の討伐報酬貰いに行くぞ」

「わかったわ、その後は少し観光しましょ!」


セレンはルンルンに気分を上げていた。


こいつ……絶対討伐報酬散財する気だろ


「さぁ行きましょ!その金で今夜は豪遊ね!」




「ライ…私は今夜は豪遊するって言ったわよね?」

「確かに言ったな」


昼間のその発言は確かに覚えている。

だから今夜は俺なり豪華にした。

しかしセレンは納得のいっていないようで


「普通女の子を連れて豪華なところって言ったらやっぱりレストランとかじゃない?」

「まぁそうだな」

「じゃあなんで酒場なのよぉぉぉーー!」


セレンの悲痛の叫びが聞こえる。

何故か?

俺達の今目の前にあるのは街の中心部にある居酒屋だからだ。


「仕方がないだろ、盗賊の討伐がまさかの無報酬だったなんて」

「うぅ……王国のパーティーで食べた料理の味が忘れられない……」


詳しく言うと俺達が戦った盗賊はなんとまだギルドに確認される前だったようで依頼すら出ていなかった。

当然依頼されていないのだから報酬はない。


「お前…昨日のシチューは美味しいって言ってただろ?」

「それはそれこれはこれよ!楽しみにしていた物がいきなり無くなったら悲しみでしょうが!」

「あーはい、とりあえず行くぞ」


俺はセレンを無視して中に入ろうと進む。

入り口の手前に置いてある看板には


“安くて美味しい”


なんて書いてあったが料理の味がわからない俺にとっては関係ない


セレンの悲しみの感情を表にしながら入店した。


「お好きな席にどうぞ!」


エプロンを着た女の店員に迎えられる。

店内は賑やかでありみたところ冒険者が大量にいた

俺とセレンは空いていた席に座るとメニュー表を取る。

セレンはメニュー表をさっきまでの悲痛とは裏腹にワクワクしながら読んでいた。

俺はセレンがメニューを選び終わるのを待っていると周りの視線がこちらに向いている事に気づく。


確かに酒場にセレンを連れてきたのは不味かったな


側から見れば小さいお子さんを連れてきている怪しい男に見えるのだろう。

しかもセレンの服の装飾は意外と凝っており旅の間は浄化魔法があるおかげで変える必要がなかった。


「はぁ……決まったか?」

「えぇ!すみません!ビールをふたつ!」

「おいちょっとまて」

「え?どうしたの?」


セレンが首を傾げこちらを見てくる。

これは俺が間違って無いんだよな合ってるんだよな


「お前、アルコール飲んで大丈夫なのか?」

「なんでよ?」

「腐っても少女だろ?」

「私はこれでも年齢は500を超えているわ、ワインなんていくらでも飲んだわよ…」


こいつだから成長しないような……


すると店員がこちら駆け寄ってくる。


「すみません、あの実は…」


こいつのビールの件か?なら非はこちらに……


「実は店内が満席でして相席をお願いできませんでしょうか?」


辺りを見回すと確かに沢山合ったテーブルは埋まっており冒険者達の話声がさっきより多くなってきた

いた。

俺はセレンと顔を見合わせる。

セレンは頷くと別にいいという顔をしていた。


「別に構わんが…」

「ありがとうございます!」


店員が入口の方に急足で向かっていった。


「酒場ってこういう事が毎回あるのかしらね」

「さぁ…俺もあんまり来ないからわからん」


まぁ面倒な奴らじゃなきゃいいが……


すると店員が奇怪な3人組を俺達の席に案内してきた。


「はぁ……結局王国の一件、謎が多いままおわったわね」

「あのエキドナちゅー女!やっぱり何か隠しとるわい!!」

「和也さん、あんまり大きい声は出さないようにです〜」

「あぁすますまん日菜はん」









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