間章 憎愛はここに

第17話 魔物と魔女

<魔王国領>


「みてみてリーガル兄ちゃん、こんだけ収穫したよ!」


ゴブリンの少年が身長の半分くらいのかごを見せる

中を覗くとそこには青い野菜が数十個ほど入っており少年は目をキラキラさせながらこちらを見ていた


「流石俺の弟!先に帰っていていいぞ」

「わーい!」


そう言うと弟はかごを抱えながら家の方に歩いて行った。


ここは魔王国の辺境、最も人間の国に近いところであたりには生い茂る森と広大な畑が広がっておりそこに俺達は数こそ少ないが村を作り暮らしていた。


「ふぅー今年も豊作だな」


俺は持っていた野菜をかごの中に入れ次の野菜を収穫しようとしゃがむ。

この畑は村から少し離れており5分ほど歩くと家に着く。

空を見ると太陽は少しずつ落ちていっておりあと1時間ほどで暗くなりそうだった。


「日が落ちるまでには帰れそうかな」


そんな事を考えながら収穫しているうちにいつの間にか辺りの野菜は取り切ったりようで時間も相まって作業を切り上げ村の方に歩いて行った。


村に着くとそこには藁で作られた家が数件あり中央には井戸がある。


「お、リーガンよ!」


力強い声の方を向くとそこには年老いたゴブリンがボロボロの木の椅子に座っていた。


「ザル爺!また畑作業サボって……」


このゴブリンはザル

歳のせいにしていつも仕事をサボって寝ている。


「ガハハッ!若いもんに任せておけばいいんじゃよ!それにわしはもうお前達に教えるもんは教えた、畑作業や兎の狩方…お前さんに任せておけば村は安泰じゃ」


ザルはそう言うと立ち上がり俺の髪をくしゃくしゃに撫で回す。


「わしらは魔王国の王都に近い所に住んでいるから知能が比較的高い…でも人間の領域住んでいるゴブリン達は恐らくわしらみたいな会話での意思疎通はできんじゃろ…リーガンが本当にここの村に生まれてきてよかったわい」


ザルは少し寂しそうに言うと俺に背中を向け自分の家に歩き始めた。


「じゃあね!ザルー!」


俺はザルとの距離が遠くならないうちに傷だらけの背中に向かって叫んだ。

ザルは後ろを向きながら手を振る。

その手はまるで多くの戦場を経験したかのような傷がついていた。


「俺も帰らないと…」


俺はかごを背中にかけザルとは違う方向に歩き始めた。

もう赤くなった夕日は遠くの方で沈み始めている

太陽はその日の終わりを告げていた。


「ただいま!母ちゃん!」

「あら、お帰りなさい随分と遅かったわね!」

「リーガン兄ちゃんお帰り!」


母ちゃんと弟は俺に笑いかけてきた。


少し小太りでふっくらしている。

いつも帰ってきた時の笑顔は最高に素敵で俺の自慢の母ちゃんだ!


「ザル爺と話してたんだよ、母ちゃんによろしくって」


俺はカゴを床に置き真ん中にある鍋の周りに座る。

弟は小走りで俺の隣に座った。

この季節だと夜は冷える。

この暖かみと家族が俺の生きがいだ!


「今日も恵みに感謝しましょう…いただきます」

「いただきます!」

「いただきます」


母ちゃんが木の器持ってきて俺達に取り分ける。

弟は早く食べたくてソワソワしながら待っていた。


「そんなに慌てないの、熱いからゆっくり食べるのよ」

「わーい」


弟は子供同然ようにはしゃぎ器を手に取った。


「リーガンも」

「ありがとう、母ちゃん!」


手に取った器はじんわりと温かく思わず息を吹きかけ冷ました。

そして野菜が沢山入ったスープを口に運ぶ。

美味しい……

やっぱり…


「やっぱり母ちゃんの作る料理は最高だ」

「あら大袈裟よ」

「ままの料理は世界一だ!」


こうして俺達の幸せな夕食は続いた。

これが日常

喧嘩もあるし弟との殴り合いも昔はした。

でも俺はこれが最高に幸せだ!!





「母ちゃん……いつもありがとう」


俺達は藁の寝床でぐっすりと寝た。

安心して……

明日も同じような日が続く事を祈って……



何かが……燃える音?

……これは夢?

誰かが叫んでいる。

いや……違う……これは……これは!


「リーガン!早く!起きて!!」


俺は母ちゃんの叫ぶような声で飛び起きた。

目を開けるとそこには弟と母ちゃんが焦るような目で俺を見ていた。


「母ちゃん……こ……れは……は!」


周りを見るとそこは炎で包まれており家はすでに崩れかけていた。


「なんなんだよ……なんなんだよこれ!」

「人間が……人間が来たのよ!早く逃げないと殺される!!」


俺と弟は母ちゃんに引っ張られ倒壊する家をなんとか脱出した。

脱出した俺が見た光景は絶望そのものだった。

泣き叫ぶ声

燃える木の匂い

逃げ惑うゴブリン達


「ねぇ!ねぇ!母ちゃん!どうしてなんでこうなったんだよ!」


わからない!

なんでなんでなんで!


大人のゴブリン達はオノや槍を持ち村の門まで走って行く。

しかし帰ってきたのは血を吹き出した頭そして手首だけだった。


「一体…誰がこんな!」


火で視界が霞む中ようやくその正体が見えた。


「やぁーーやっぱり異世界っていいよねこれが経験値って言うやつかー」


軽い口調で黒髪の剣士は向かってくるゴブリンを切っていく。


「いやこの世界に経験値のシステムないっしょ」


狩人の格好した女は火弓を放ち家を燃やしていく。


「戦闘経験は大事ですよねーよし!もう一匹狩った」


もう一人の金髪の男はハンマーのような物を構えるとゴブリンを潰していった。


「なんでこんな……」

「リーガン!!早く逃げるのよ!」


俺と弟は母ちゃんに連れられ村の反対の門に向かって行く。

後ろでは悲鳴や叫び声がする。

すれ違う大人はみんな帰ってこない…

いやだそんなの…


気づいたら村から少し離れた丘の上に来ていた。

目線の先では村が業火に燃えていた。

朝起きてすぐ走ったせいか既に3人とも体力は限界に近かった。


「ねぇ……まま…僕お家に帰れる?」


弟は泣きそうになりながら母ちゃんを見ていた。

そんな弟を見て母ちゃんはゆっくりとしゃがむと弟に抱きつく。


「ごめんね……ごめんね…私に貴方達を守る力はなくて……」


母ちゃんは震えながら謝っていた。

その姿は今まで生きていた中で俺達にも見せなかった物だ。


違う……俺が……俺の力が足りないせいで


俺は震える母ちゃんの肩を掴もうと手を伸ばす。

すると



_________母ちゃんの肩に弓矢が刺さっていた_____



母ちゃんは力がゆっくりと抜け弟の目の前で倒れた


「え?……ままなんで……起きてよ…ま……」


俺は弟に飛びついた。

体勢を崩し抱き抱えるように倒した。

その直後を弓矢が通り抜ける。


「くそっ!」

「ねぇままはなんで……倒れているの……ねぇ」

「いいか一度しか言わないからよく聞け!」


俺は弟を押し倒した状態で話す。

弟も涙目でうなづく。


「ここをずっとまっすぐ行くと森がある!そしてその森をさらに超えると街が見えてくるはずだ!」

「リーガン兄ちゃん……何を言って…」

「俺は母ちゃんを起こして行くから先に行ってろ」


嘘だ……

母ちゃんが弓矢に刺さった部分は紫色にじわじわと変色していた。

きっと低ランクの魔物を殺すための毒だ。

これは昔友達が死んだ毒の症状とよく似ている。

母ちゃんが倒れ込む時一瞬だけ俺の方を見た。

それは諦めた目ではなく。


***をお願いねリーガン……


そう言われているようだった。

なら俺のやる事は決まっている!


「嫌だ!兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ!」


暴れる弟の手足を掴み落ち着かせる。


こいつを守る!

何がなんでも絶対に!


「俺は大丈夫だから…すぐに行く!街で待っといてくれ……」


俺の言葉に弟は落ち着いたようでゆっくりと立ち上がった。


こいつ…こんなに大きくなっていたか?

物心ついた時から一緒だからわかんなかったわ

あぁ…どうか神様……俺の愛する弟にご加護を…


「本当に?絶対?」

「あぁ約束する……だからいけ!」

「うんわかった!絶対きてね!」


弟はそう言う遠くの方に走って行く。


あんなに早く……遠くへ

あいつ俺よりも足が速いんじゃないか?


「なーんてな」


俺はゆっくりと後ろを向く


「あれ?2匹殺したはずなのにー」


狩人の女が丘に上がってきた。

するとそれについてくるように残りの2人も上がってきた。


「キララ、勇者失格なんじゃね?弓も外すとか」

「意外難しいんだって大斗も狩人のギフト貰えばわかるっしょ」

「いやいやギフトのせいにしちゃだめでしょ?そうですよね大斗さん!」


黒髪の剣士はその言葉にうなづき狩人の女の意見を否定する。

ハンマーの男もそれに同情した。

俺は3人が話している間に母ちゃんの肩に刺さった弓矢を抜く。


今はこれしかない……でもあいつを逃すために!


俺はいつも畑で使っているクワのように構えた。

するとそれを見て3人は爆笑する。


「ギャハハ!!ウケるんですけどー」

「諦めが悪いのはいやですねぇー」

「まぁ一人だからすぐ終わるか」


こい!1秒でも長く!稼ぐ!


俺はここに人生の全てを賭けた。


わかっている…確実に勝てないと……

でも俺は!

すると


「待つんじゃリーガン!」


俺の隣に来たのはザル爺だった。

見ると全身が焦げており傷の数がさらに増していた


「ザル爺も逃げて!」

「バカモン!大切な弟を逃すんじゃろ!?お前とわしで命をかける」


そう言ってザル爺は持っていたオノを構える。


あぁ俺はザル爺と死ねるのか……

仲間がいるって幸せだな


「行くよザル爺…あの世で喧嘩しようぜ」

「どっちが先に絶えるか勝負じゃ」


俺達は勇者を名乗る3人に立ち向かった。

小さい頃ザル爺と弟と川で遊んでいた事を思い出した。


さようなら…***


勝負は一瞬でついた。


そこに転がっていたのは魔物の頭が2つ

その顔はどちらとも笑顔だった。



          *


森で倒れる一匹のゴブリン

まだ体は幼く弱気ものだった。


「うぅ……うぅ……」


少年ゴブリンは涙を拭う。

そして力を振り絞り立ち上がった。


こんなところで倒れてたらままやリーガン兄ちゃんに叱られる。


「兄ちゃんとの約束を守るために行くんだ!!」


湿った土を思い切り蹴り駆け出す。

この先できっとままとリーガン兄ちゃんともう一度………


バタンッ


体力が切れ倒れ込んだ。

朝からずっと走っていたせいだろう

ろくに何も食べていない。

意識が少しずつ朦朧としていく。


「なんじゃなんじゃ?」


突然目の前に人影が現れる。

朦朧としていく意識の中で言葉を絞り出す。


「だぁーれ……」

「わしのことか?ゴブリンの少年」


人影はこちらに近づき目の前で止まる。

そしてその名を名乗った。


      「わしの名は……………



 ……………憎愛の魔女、ゴルゴンじゃ」


そこで意識は途切れた。




_____________________________________________


1話でまとめようとしたら文字数が多くなりました

すみません……

次からまた本編に戻ります







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る