第二章前編 偶然は「精霊」を呼ぶ

第18話 旅路

「へーお姉ちゃん冒険者なの!」

「そうよ!ちなみにこの目つきが悪い黒い人も冒険者よ」


馬車の中でセレンが隣に座っている少女に向かって自信満々に言う。


「お兄ちゃん!冒険者ならプレート持ってるでしょ見せて!」

「これのことか?」


俺を興味津々な目で見てくる少女にEと書かれたプレートを見せた。

少年は興味深々にプレートを手の平に乗せじっくりと見つめていた。


「コラ!すみませんうちの子が…」

「大丈夫だ、飽きるまで見ればいい」


親と思われる女性が少女を抱える。


俺達は共和国の首都にある世界樹に向けて旅をしている。

現在はその道中であり帝国の港町までの馬車に乗り込んでいるところだ。


「ねぇ御者さん、あとどのくらいで次の町には着くのかしら?」

「そうですねぇ今のペースで行くと一晩はかかりそうですぜい、まぁ野宿になりそうですぜ」


御者は手綱を引っ張りながら答えた。


「ライ聞いた!?野宿ですって!私館を出てからキャンプするの初めてなの、楽しみだわ!!」

「わかったから落ち着け、あと馬車を揺らすな」


セレンが飛び跳ねた衝撃で馬車が少し揺れる。

御者も慌てて手綱を手元に戻した。

セレンもそれに気づいたようで咳を一回すると顔を赤らめながら元の位置に座った。

そんな俺達を見て少女の母親は微笑みながらこちら見た。


「ふふ、見ててとても微笑ましいです」

「この小娘が?冗談じゃない、いつかとんでもない事をやらかしそうで怖いくらいだ」

「あら?貴方のことよライ、自覚がないのかしら」

「どっちもですよ、お互いを信頼しやっているみたいですね」

「お兄ちゃんと姉ちゃん凄く仲がいい!!」

「?」


俺は疑問に思いセレンの方を見た。

しかしセレンは何やら考え事をしているみたいだった。

こいつとは利害関係が一致しているだけであって何者でもない。

例えこいつが俺に何かを与えたとしても俺から何かを与える事はない。


「セレン…お前は…」

「ヒヒィぃぃン!!」


馬がいきなり暴れ始める。

御者も必死に抑えようと手綱を引っ張っていた。


「何が合った?」

「め、目の前に…」


御者が震えながら指を挿すとそこにはボロボロの布を頭に巻いた賊が道を塞いでいた。

賊の男は一歩馬車に近づくと強気な声で


「金と女をよこしな、そうすれば命だけは助けてやる」

「ひ、ひいぃ」


御者は震え母親は子供を守るように抱きかかえていた。

俺は馬車を降りて前に出る。

辺りを回すと賊は馬車を囲むように配置されていた


「9……10……11か」

「何いったんだぁ?このクソガキ早く金とそこの女3人を差し出せって言ってんだよ!!」


どうやら賊達はイライラしている様子

剣をこれみよがしにこちらに向けてくる。


「お、なんだぁ?」


俺は両手を上げる。

世間一般ではこれは降伏合図らしい。


「わかるやつだなぁー?この戦力差降伏するしかねぇよなぁー」

「お兄ちゃん……」


少女は泣きそうに泣きそうな声で言う。

賊の男はこちらにゆっくりと近づいてくる。


「そうだなぁあーまずは女から」



「……危機管理がなってないぞ」

「あ?」


俺は近づいてきたタイミングを見計らって賊の体を思い切り蹴り上げ頭を押さえ地面に叩きつける。

俺が手を離すと賊の男は気絶しており立つ気配もない。


「……まずは1人」

「え、あ、あ、お前ら!!奴を殺せ!!」


別の男が呼びかけると残りの賊が一斉に襲いかかっている。

全員ナイフを所持している。


「悪いが体術は得意じゃないんで、剣を使わせてもらう」


俺は黒衣の下から剣を取り出す。

鞘は抜いていない。


「しねぇぇぇ!!」


次々と遅いかかってくる賊

しかし全ての攻撃を避けるか剣で受け止め賊に打撃を与える。


「2……3、4、5……」

「なめんじゃねぇぇぇえ!」


その叫びは無意味だ。

お前らがどんな手を尽くそうがどんな小細工をしようが俺には勝てない。


「8、9、10」

「終わりだ!」


俺の背後を残党が取る。

当然そんな事は予測済みであり前を向きながら剣の持ち手を腹に当てた。


「ガハッ!」


男は腹を抑えて倒れ込む。


「……11」


これで全員か…

やっぱり体術は覚えて置くべきか


「お、お兄ちゃん凄ーい!!」


馬車の中で嬉しそうに少女が飛び跳ねている。


「セレン、事後処理は任せた」

「はいはい」


セレンは適当に返事をすると鳥の使い魔を呼び寄せる。

そして


「盗賊団らしき人達を捕獲したわ、回収をお願い」


鳥にそう伝えると空に消え去っていった。

恐らく近くの街の冒険者もしくは兵団にメッセージが送られる伝書鳩だろう。

セレンは魔術でメッセージを込めた。


「す、凄いですぜ、お客様…本当にEランクの冒険者…?」

「そういう事になっている」


まぁFからEに昇格したのは最近だし普通の冒険者は10年くらいかけてAランクになる。

受けている依頼が少ない俺達に現状昇格は見込めないだろう。


「縄を持っているかこいつらを縛りたい」

「は、はい!」


御者は駆け足で馬車に行くと長めの縄を手渡す。

俺は引っ張り強度を確認する。



これなら解かれる心配もない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る