第16話 残された疑問


「な、なんなんやこれ……」


和也はその光景を目の当たりにする。

夜が明け森が太陽に照らされる。

和也の瞳に映ったのは森が灰に焼かれ大きな穴ができた光景だった。


「あの音の正体はこれだったわけね…おかげで眠気も吹っ飛んだわ」

「こ、怖すぎですー」



軽めの口調で言う杏の後ろに隠れて震える日菜

和也達がここに駆けつけた時には既に戦闘は終わっており、魔族と思われる死体が数体ありそれ以外の痕跡はなかった。

晃達が意識を失い城に運ばれた事は知っている。


じゃあこの何が燃え尽きたような跡は一体…


和也は頭を悩ませる。

するとそれを見ていた杏が和也に近づき小声で言う


「和也…もしかしてあの魔女何か隠してない?」

「わいもそう思う…エキドナって言う女なんか胡散臭いんや」


周りの王国兵達に聞こえないように話す。



兵達もここに来た瞬間驚きを隠せない表情をしていた…

それに魔王軍第五席次の出現…

突如鳴り響いた轟音……

おそらく自分達は何か情報を隠されている?


和也もここまで不自然な状況に疑問を感じざるおえなかった。


「地面が湿っている…さっきまで雨が降っていたようね…」


杏は地面を蹴りながら土の硬さを確かめていた。


「とりあえず帰ったら晃達に聞いてみるんや!」

「まぁ…そうね起きたら聞いて見ましょ」

「そうです〜」


3人は疑問が残るまま森を後にした。



          *

<ギンガルド城客室>



「まさか火属性魔法を使うとは…」

「あれが1番わかりやすいと思った、文句があるならエキドナに言え」


セレンが呆れた口調で言うのに対して俺は雑に言葉を投げ返す。


「ふふふ、仲がいい事」


そんな俺達を見てエキドナは微笑む。


「さて、貴方達はちゃんと約束を守ってくれたわ…

とりあえずありがと、王国の勇者を守ってくれて」

「契約は契約だ、必ず果たす、条件はちゃんと覚えているよな?」

「えぇ…」


エキドナは少しだけ体を曲げ頭を下げる。


確かに今回俺はエキドナとの契約で魔族と戦うことにした。

その契約の内容とは


「俺の正体を口外しないのと最果ての楽園について知っている情報を話す事を条件に勇者を助ける事」

「その通り、後は貴方の力の一端も見せて貰うことね」


そう言ってエキドナは座ったまま手を伸ばし立てかけていた杖を手に取る。


俺はこれがただの口約束なら信用していない。

しかし今回の契約に用いた魔法は魂を縛る契約ルグニ・マキナ

契約魔法の上位の物であり対象同士の魂に契約を刻ませる物。

おかげで俺もエキドナの契約を信じ遂行したというわけだ。


そんな俺とエキドナの会話を何やら不満そうな顔でセレンは聞いていた。


「いいのか七災害は人類の敵じゃないのか?」

「ふふふ、もしかして敵になって欲しい?」


エキドナは小悪魔のように微笑みながら言った。

まぁ敵にならないなら都合はいいが…


「契約は受理された、少しの情報でもいい、最果ての楽園について知っている事を話せ」

「ふふふ、私も最果ての楽園について知っている事は限られているわ、場所については検討がつかないでも…見つける方法なら知っている」


そう前置きを言うとエキドナはぼろぼろの大きな紙をテーブルに広げる。

それはこの世界の地図だった。

何年も使い古された後が所々にあり端の方は破けそうだった。

俺とセレンが地図を覗き込むとエキドナが説明を始める。


「私達が今いる場所はここ」


エキドナは地図の真ん中を指差す。

そこにはギンガルド王国と書かれていた。


「ここから北西に行くと世界樹と呼ばれる巨木がある…当然知っているわよね?」

「まぁ聞いたことぐらいはあるわ、ライは?」

「セレンと一緒だ俺も聞いた事はあるぐらい」


俺はそう言って地図の端の方に描かれている木を見る。


世界樹……

この世界に住んでいる人なら誰でも一度は耳にした事がある木の名称

天まで続くと言われているその木は一国ほど大きく共和国領の観光名所として有名だ。

しかしなんで今更…


「ふふふ、世界樹にはね、『樹』の災害アガレスが残した叡智の書があるの…」

「…………」


なるほどそう言うことか


「叡智の書ってなになに!?」


セレンは身を乗り出し興味深々にエキドナに聞く。


「この世の全てを記した本……『樹』の災害はこの世の全てを観測した。その時観測した事を記録した本よ、最果ての楽園が存在しているならきっとそこに答えがあるはず、貴方のその呪いもきっと解決できるわよ」

「ここからどのくらいかかる」

「そうね…最低でも3ヶ月はかかるわ…でも貴方、飛べるんじゃないの?」


そう言ってエキドナは俺を見つめる。


「残念だがこの魔法は不完全な物で5分程度しか飛べない…それにお荷物もあるしな」

「誰がお荷物よ」


セレンは言葉の意味を理解したようで怒声で言う。


「んなわけで気長にやっていく」


どうせ時間は飽きるほどあるしな……


悲しそうな目をするライを見てセレンは少し憐れみの表情を見せた。



「ふふふ、とりあえず共和国領に行く為には帝国と獣国を超えなければならないそれに…」


エキドナは地図に指を刺しながら説明する。


「魔王国が今共和国、獣国の連合と戦争をしているの…もしかしたら遠回りをすることになるかも」


エキドナはあらかた言いたい事を言い終わったようで地図から顔を上げる。


「何か質問はあるからしら?」

「いや、ない感謝する」


こいつに聞きたい事は山ほどある

しかし今の説明とは全く関係がないのと優先順位は低い事からないと答えた。

セレンは俺の嘘がしっかりとわかったようで少し驚いた表情をしていた。


「ふふふ、今日は城に泊まっていったら?」

「だそうだセレン、どうする?」

「そうねここはお言葉に甘えてそうさせて貰うわ」


セレンは納得したように頷くと勢いよく立ち上がった。


「さぁ昨日食べきれなかった分今日はとことん食べるわよライ!」

「あーはい」


俺は適当に返す。


まだ昼にもなってないんなんだが…


「ふふふ、すぐ昼ごはんを用意させるわね」

「俺は明日の馬車の予約に行ってくる」


そう言って俺は立ち上がりドアノブに手をかける


「すぐ帰ってくる…じゃあエキドナ、セレンを任せた」

「任されたわ」


エキドナがひらひらと手を振る。

俺は重厚感ある扉を開け客室を後にした。




______________________________________________


とりあえず第一章完結

次は間章です


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