第15話 夜明け

マルクが振り返るとそこには黒衣の男が立っていた


「んでそいつらどうだった?」

「貴方は一体…」


マルクは平常を装うが内心は焦っていた。


探知の範囲外からの転移……いやありえない


「どうした?」


嘲笑うかのように言う黒衣の男だったがその目は光を灯していなかった。

まるで何かに絶望しているようなそんな目をしていた。


「……いえいえなんでもありません、失礼ですが貴方は一体どちら様です?」


マルクが名前を聞くと黒衣の男はゆっくりとした口調で答える。


「ただの旅人…寄り道をしただけだ」

「おやおや、旅人さんでしたか…ここは危険ですよ?なんせ勇者が倒れるほどの魔族が出現したそうですから」



口から出まかせ言うなこいつは…

この人間は確かに怪しいですがワタクシの任務は後はこの勇者を持ち帰るだけ…

もういっそのこと無視すればいいのでは?

いや見られたからには対処しますか

それに…


「その魔族とやらは一体何処にいるんだ?」


黒衣の男は冗談混じりなら口にする。


「そうですね、例えばこんな羽なんてあったらどうですか?」


マルクは大きく羽を広げた。

その光景を目をただ見つめていた黒衣の男


「戦う気なら一つ忠告してやる、すぐに撤退しろ

ここで起きた事は全て無かった事にしてやる」


おや、人間ごときの貴方が魔族である私に忠告などとは…

弱者ただいきがっているだけ…


「随分と大きく出ましたね人間!!」

「?」


マルクが高圧的に言うのに対して黒衣の男は小首を傾げわからないと言いたそうな顔をした。


なんなんだこいつは一体

勇者はワタクシを見ただけで怯えていたと言うのにこの人間は全くその様子がない

まぁいいでしょうそれなら一瞬で終わらせるまだです。


マルクは懐からナイフを4本取り出し両手に2本ずつ持つ。


「ではさよならです」


その瞬間マルクは一気に間合いを詰め黒衣の男に突撃する。

黒衣の男は反応すらできず大きく吹き飛ばされた。

木に激突し激しい衝突音が森に響く。


「やはり…人間は弱すぎる、さて勇者の回収を…」

「今ので終わりか?」

「!!」



見上げるとそこには吹き飛ばされた筈の黒衣の男がいた。


「な、何故!今ワタクシが吹き飛ばしたはず…」


確かに感触は合った!

触れていた筈だ!


「幻影魔法、幻想ファントム…始めて使ったが意外と扱いやすいな」

幻想ファントムだと!あ、ありえない!

人間ごときが第3冠位魔法を使える筈がない!」

「別に人間が使ったっていいだろが」


黒衣の男の言葉に唖然とする。


冠位魔法…

それは普通の魔術や魔法とは違い魔導士になれば誰でも習得できる物ではない。

ましては魔女ではない人間がそんな物を平然と使うなぞ!


「ならば!睡眠付与シェラーフ!」

「ん?」


マルクは魔法陣を展開し攻撃する。


この魔術は魔術耐性が高い勇者にも効いたこれなら


黒衣の男は余計ようとせずその攻撃を平然と受け止める。


「これで……」


しかしマルクの期待は裏切られる事になる。

数秒待った所で一向に黒衣の男が眠る気配がない


「な、なぜ……」

「俺には外部からの状態異常に対する絶対耐性が

存在する、残念だな」


男は更に絶望突きつけた。


なんなんだ!

なんなんだこいつは!


マルクは羽を広げ空中にいる黒衣の男に切り掛かる


繋ぎの門ゲート


男がそう言うと隣の小さい横穴が作成され右手を中に入れる。

取り出したのは簡易な装飾が施した一本の剣だった

空中で乱撃を繰り出すマルク

側から見ればまるで一方的に攻撃しているように見えるだろう。

今回は相手が悪かった

黒衣の男は攻撃を全て剣で流しナイフを吹き飛ばした。

マルクは諦めず魔法陣を展開し次の攻撃をする。

しかしその展開は間に合わず黒衣の男の蹴りで遠くに吹き飛ばされマルクは森の中に落下する。


「ここなら勇者を巻き込む心配もない…お前に本当の魔法とやらを見せてやる」


黒衣の男はそう言うと魔法陣を展開し詠唱開始する

その魔法陣はマルクの数百年生きている中で一番巨大であり、陣から発せられる紫色の光は終末を表しているようだった。



「悠久をすべる物…汝は世界を屠る太古の龍災…

終焉を告げる…名を」


 

ワタクシは知っている……

この魔法の名は伝説にしか語られていない

そしてその魔法を使える人物はこの世界にただ1人


マルクは魔王との会話をふと思い出す。


「勇者なんぞ問題ではない、問題は奴だ。お前では勝てん」

「魔王様にそこまで言わせてるとは…一体どう言った人物でしょうか?」

「我と同じ七災害の名をつけられ世界から恐怖させれし物…」



この光景が走馬灯のように体を巡った。


「そうか思い出しましたよ!!まさか貴方が貴方様が」

「第八冠位魔法…バハムート」

「人の災害!偽善のベリト!!」


あたり轟く爆発音

その音は王国中にも和也達がいる反対の戦場にも轟いた。

魔法陣から出た豪炎はマルクを中心に森に降り注いだ。

燃え盛る森

その炎は広がり続けようとしていた。


「エキドナのやつ…威力を抑えて使えとかふざけてるだろ…」


ライは地面に降り立ち燃え盛る森を見る。


「セレン、後は任せた」

「威力抑えろって言われたでしょうが!この間抜け!」


隣に現れたセレンは魔法陣を展開する。


「……クリーマディフ」


セレンが展開した魔法陣は空高く飛んでいき大量の雨を降らせた。


「お前…魔法使えたんただな」

「魔女なんだから当たり前でしょ!」


怒るようにセレンは言った。

時期にこの雨で森の火は消えるだろう…


「勇者の手当ては済んでいるか?」

「えぇ貴方が戦っている最中に終わっているわ」

「そうか」


あたりが段々と明るくなってきている。

雨は降っているが太陽が昇るのが見える。

なんとも不思議な光景だ。


「さて、戻るか…ここにいたら他の兵に見つかる」


俺がそう言うとセレンも隣に着いてくる。


「えぇ戻ったら貴方には沢山聞きたい事があるわ」

「お前、盗聴してたな?俺とエキドナの会話…」

「あっ…」


セレンは目を逸らした。

俺達は朝日が昇る城に向かって歩き始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る