第11話 八戸

夜も更け月明かりと街灯に照らされた城

昼間は咲き誇る数々の花が美しく見えた庭もこんな暗闇だと見えない。

今、城の中では勇者の歓迎パーティーが行われている。

私は勇者であるのにも関わらずパーティーを抜け出して城の裏庭にきてしまった。

理由は単純人混みが苦手だからである。

あのガヤガヤとした雰囲気に目が回って酔ってしまった。


「これじゃあまだダメね…私ったら…」


私は苦言を呟く。

転生する前から私は人が沢山いる所が苦手であった

教室でも瑞稀や晃が話しかけてくれなければずっと本を読んでいた。

城から支給された紫色のドレスの裾を持ち上げながら歩く。

城からの声が少しずつ遠くなって行く。

私は昼間に晃達といたベンチを目指して歩く。

すると…


「誰!?」


突然人の気配がした。

ベンチから少し軋む音がした。

私は暗闇に目を凝らす。

よく見るとそこには何やら黒い影が横たわっていた

不気味とも取れる全身真っ黒な人影は月明かりによってその正体が現れる。


「人…だよね?」


見ると黒衣を着た男がベンチに横たわって寝ており

私は戸惑いを隠せない。

不法侵入者だったらどうしよう…

これって連絡した方がいいのかな…

そんな思考が私の中で巡る。

そして


「……うーーん?」


横たわっていた男が両手を大きく上げながら体を起こす。


「……そこに誰かいるのか?」


男は体勢を整えるとこちらを凝視する。


「え…あ……あの」


格好は如何にも不審者

関わってはいけない

どうしよう


「あ、すまんここを借りていた。城の中はうるさくてな」


男はそう言うとベンチから立ち上がり何処かに行こうと歩き始める。


「あ、あの!」


咄嗟に私は男を呼び止めてしまった。

私は何か喋らないとと思い慌てふためく。


「わ、私は八戸って言います。三門八戸…」


すると男はこちらに近づいてきて私に顔を近づけた


ち、近い……


距離は数センチほどでありその顔は近くで見ると身長の割に若く私と歳は同じくらいに思えた。


「その名前…転生者か…」


私びっくりして後退りをする。


「あ…すまんびっくりさせるつもりはなかった。

俺はライ・グランディール、連れとここのパーティーに招待されてきたのだが用事も終わったし休んでいた所だ」


確かに今の季節は昼は丁度いい気温だが流石に夜のこの寒さだと肌寒い。

こんな所で休んでいた?

男はそう言うと再びベンチに座り招くようにこちらに手を振った。

確かにこの男は怪しいがもしも不審者だった場合城に報告するのが適切だろう。

しかしお偉いさんだった場合はここの招きに応じなければ失礼に値する。

それにこの男には少しだけ興味があった。


「わかりました」


私は招きに応じ人一人分の間を開けて座った。


「あ、あの…グランディールさん」

「呼び捨てで結構」

「え、えーとライ?」


異世界人とはこう言う人達ばっかりなのだろうか

転生してから一ヶ月私は城のメイドやお偉いさんとは話したが一般人の異世界人とは中々話す機会がなかった。


「貴方はどうしてここにいるの?」

「さっきも言った通り連れがパーティーに出席している。それに一通り勇者も見たしもう用事がなくなったからだ」


勇者を見た?

何故勇者を見る必要があったのだろう

疑問が更に浮かび上がる。


「お前はどうしてここにいる?」


ライは無表情を貫いたまま質問する。


「え、えーと城の雰囲気があまり好きじゃなかった?…」

「そうか」


まるで機械のように返事をする。

ライの横顔を見ると何処か正気を抜けたような顔をしており、該当するの光だけでは分かりづらいが目は死んでいたように思えた。

少し間を置いたあとライが口を開く。


「お前以外の転生者はどう言う奴らだ?」

「あ、えーと元気がいっぱいの女の子と誰とでも仲良くなれる男…私含めてこの3人」

「凄いメンツだな」



私はライが果たして興味を持っているかいないかわからなかった。


「いい友達を持ったな」


ライはそう言うと立ち上がった。

私は無機質な男の中に少しだけ優しさを感じとれた

もしかしてこの人は……


「……これも全部とある人のおかげ…私を助けてくれたあの人のおかげ」


私は続けて数年前の思い出を語る。


「ずっと一人だった私に話しかけてくれたの…貴方のようにずっと氷のような表情だった」


男は立ちながら私の話しに耳を傾ける。


「そいつはお前にとって大切な人か」

「えぇとても大切……でも」


私は言葉を濁らせた。

ここから先を語るべきかは迷った。

しかしここまで来た以上語らないわけにはいかない


「死んだの……事故で……」

「………」


ライは空を見上げたまま黙りこんだ。

そりゃそうだいきなりこんな話しをされたら私だってなんて反応すればいいかわからない。


「まぁお前が今幸せなそいつもきっと…」


ライが何かを言いかけたその瞬間

風が吹き荒れ庭園の花びらが舞う

雪のように舞うは花びらに空に私は見た。





「あ、あれは何!?」




八戸が見た物はまさしく闇

空に浮かぶ無数の人影がこちらに向かってくる

空を覆い隠さんとその姿見はまるで悪魔同然だった

結界に反応を感じエキドナは窓の外を見る。


「当然よね…勇者は召喚されたばかり、狙われるのは今…」





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