第一章 慈愛魔女と「人」の災害

第5話 七災害

 ギンガルド王国 ギンガルド城 会議室


「えー以上が冒険者協会への助力金と税策についてです。異論はありませんか?」


 学者らしき人物がそう言うと円卓を囲んで座っている数十人程度の人は無言で返す。

 学者は辺りを見回し反論がない事を確認すると手元にある資料をめくった。


「では、次の議題に進みます。次は七災害についてです。前回は各国がそれぞれ勇者を選定し武力の強化、協力関係を維持し対抗して行くという形で終わりました。これについて意見がある方は挙手を」


 学者がそう言うとその学者と対角線上に座っていた人物が手を挙げる。

 その人物は純白のドレスを身につけ王族らしい格好をしていた。


「はい、スラーテン共和国ソフィア姫様」


 学者がそう言うとソフィアは椅子を引きゆっくりと立ち上がる。


「はい、各国の勇者の召喚はすでに完了しておりそれぞれの国が3名ずつ、7カ国計21名の勇者がおられるという情報に間違えはないですか?」


 ソフィアは凛々しくも強い眼差しで円卓にいる人物達に問いかけると学者は


「はい、間違いないです。こちらでも確認済みです」

「なら大丈夫ですね、これでいつ奴らが攻めてきても問題ないですね」


 ソフィアが安心した顔をすると横にいた鉄の鎧の大男がいきなり声をかける。


「おいおいおい、スラーテンの嬢ちゃんよぉーこの状況わかってんのか?数千年も俺達はあの7人におびやかされてきた。今さら勇者を召喚したところで異世界人にどうにかできるってまさか本当に思ってんのか?」


 少し脅迫的に問いかける大男に対してソフィアは落ち着いて返す。


「安心してください。すでに我が国の勇者ユウマは

 神聖武器を扱えます。今は[魔]の災害、つまり

 近日中に魔王ナベリウス討伐に向けて遠征を行います。」


 自信ありげに言うソフィアに対して大男は黙り込む


「聖騎士団長とあろうお方がまさか今更怖気付いたたんですか?らしくないですね、レオンハート」


 和服を着た男が煽り口調で大男に言う。


「いや、違うんだ、確かに勇者21人と言う数は歴代最高であり、七災害討伐は夢ではないだろう」

「では何故……」

「しかし!!」


 和服の男の言葉を遮り爆発的な声で言う。


「20年前の[樹]の災害討伐戦を思い出せ! 11人勇者を派遣して生き残った勇者は1人だけだぞ!あの戦いでどれだけの被害が出たか……あの時はなんとか倒せたからよかったものの残り6つ災害もそうだと考えるともう少し慎重に準備を進めるべきだ!」


 その声からは焦りと不安そして怒りが込められていた。

 大男レオンハートは20年前の光景が目に焼き付ついて離れない。

 それもそのはずレオンハートは騎士団長になる前だったが[樹]の災害討伐戦に参加していた。

 その時は歴代最強の勇者だと謳われていた人物が一瞬にして木や枝の串刺しになって行く。

[樹]の災害なる女は満面の笑みを浮かべ次々と人を刺していった。

 兵士や勇者達も恐怖と絶望で溢れかえっていた。

 どうやって何故勝てたのかはわからない。

 気づいた時には勇者がトドメを刺し戦いは終わっていた。

 10万の兵士と11人の勇者は壊滅

 生き残ったのはレオンハートとトドメを刺した勇者の2人だけだった。

 レオンハートは怖かった。

 あの戦場の血の匂いと[樹]の災害の笑みが染み付いて離れない。


 レオンハートは強く手を握り直し円卓にいる人物達に問いかける。


「慎重になるべきだ、犠牲を少しでも減らすために」


 そう言ったレオハートに対して一人の魔術師が手を挙げる。


「私もそう思います。とりあえず今は勇者の能力把握と、戦力の増加が最優先でしょう、もう少しだけ待ってみてはいかがですか?」

「……そうですね少しだけ焦っていたみたいですね少し考えを改めるわ」


 ソフィアがそう言うと和服の男も苦悶の表情を見せつつ引き下がる。


「とりあえず今日の所は解散にしましょう。会談は明日まであるので」


 学者がそう言うと各々席を立ち会議室から退室し始める。

 そして会議室に残ったのはレオンハートとさっきの魔術士だった。


「助かった、情愛の魔女エキドナよ」

「ええ、早く決まることはいいことだと思うわ、しかし流石に早すぎだと思ってしまった。」

「勇者召喚に莫大な資金を注ぎ込んでいるから早く成果を出したいのはわかるんだが、焦りが見えたな」

「今後もギンガルド王国をよろしくね、帝国の騎士団長様」

「あぁ…こちらこそよろしく頼む、そういえばうちの勇者達は血の毛が多くてな、すぐにでも飛び出しそうな勢いなんだよ、王国の勇者達と是非一度交流させて欲しい」

「では今夜のパーティではお互いの勇者の交流を図りたいわ、頼めるかしら?」

「もちろん、ぜひ頼む」


 そう言ってお互いに固い握手を交わした。


「そういえば最近……」


 エキドナが何かを話しかけた直後会議室のドアが思いきり開かれ一人の騎士が入ってくる。


「エキドナ様!た、大変です! 慈愛の魔女が王国に現れました!」


 レオンハートとエキドナは驚いた表情を見せる


「数百年ぶりに姿を見せたと思ったら今度は一体なんなのよ……今どこにいるの?私も向かうわ…」

「そ、それが……」

「ん? どうしたの」


 兵士は口を濁ませ答える。


「怪しげな黒衣の男と行動を共にしており……中央区で屋台巡りをしています……」



        



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